年金暮らしを目前に控えた雨宮俊介さん(64歳・仮名)。長年の勤労生活の終わりに安堵していたものの、同居する40歳の息子、健太さん(仮名)の行動が家族の平穏を根底から揺るがします。ファイナンシャルプランナーの青山創星氏が事例と共に解説します。
年金暮らし目前の60代夫婦が思い悩む、40歳の息子の事情
雨宮さん(64歳)は、継続雇用終了まであと数ヵ月という時期を迎えようとしていました。月24万円の年金と1,800万円の貯蓄。豊かとまではいえませんが、妻と2人であれば質素に安定した生活が送れると考えていました。
しかし、夫婦には大きな悩みがありました。それは同居する40歳の息子、健太さんの存在です。健太さんは36歳のときまで地元の会社で働き一人暮らしをしていましたが、仕事のストレスにより退社。それ以降は実家に戻り、時給1,300円のアルバイト生活を続けていました。
雨宮さんは息子が安定した職に就けないことを心配しつつも、社会人としての自信と責任感を持って、再度自立してほしいという思いを抱いていました。
一方の健太さんも、父親の期待に応えたいという気持ちは持っていました。しかし、年齢やブランクもあって、希望に合った就職口が見つかりません。
焦燥感に押しつぶされそうな日々を送っていた彼が、SNS上で「簡単に稼げる」という情報を見つけたのは、そんな時でした。
その内容は「スマートフォンで稼げる手軽な副業。SNSマーケティングで短期間で収益化」というもの。紹介ページには「本当に稼げる」といったコメントがたくさん並んでいました。
興味を持った健太さんがさっそく問い合わせをすると、その契約内容は「SNSの投稿文を作成してフォロワーを増やし、フォロワーと連絡を取り合って自分のメッセージアプリのアカウントを追加してもらい、商品価値を提供する。この手法を徹底サポートする」というものでした。
きちんとしたサイトもあり、サポートを受けられるなら安心だと思った健太さんは、仕事をしていた時代の貯金の残りから、なけなしの300万円を指定口座に支払ったのです。
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「簡単に稼げる手軽な副業」…その実態とは
健太さんは指導に従って早速記事を作成しSNSに投稿。しかし、売り上げを上げることができても微々たる金額で、しかも、そのわずかな売上金も一切受け取ることもできませんでした。
これは何かがおかしい。そう思って業者にクーリングオフを申し出ましたが、商用契約であることを理由に断られてしまいました。
大切な貯金を失い精神的に追い詰められた健太さんは、さらなる罠に陥ってしまいます。
「FX初心者でも、スマホ1つで年収1~2億円は簡単。マル秘の数式に基づいてトレードを自動的に行えるツールを使えば、だれでも勝率99%」というSNS上の広告に飛びつき、起死回生を狙ったのです。
しかし、FXトレードシステムの購入契約をするためのお金は、自分にはありません。そこで、健太さんは父親に無断で預金口座から500万円を引き出し、支払ってしまったのです。会員サイトへのログインや質問方法がわからず電話で問い合わせましたが、会員サイトでの質問を強要されるばかり。
結局、ツールのダウンロードもサポートも受けられないまま、業者は法人を解散し清算手続きを完了。一銭も返金されることはありませんでした。
健太さんは、ようやく自分が立て続けに詐欺に遭ってしまったことを自覚しました。そんななか、父親である雨宮さんも老後のための貯金が500万円も減っていることに気づき、妻と大騒ぎに。
健太さんは重い口を開き、詐欺に遭ってしまったことを2人に告白しました。
しかし、時すでに遅しでした。