肉親が亡くなると、葬儀や相続など数々の対応を迫られることがあります。そのような場合、事前知識や故人による生前準備が不足していると、思わず「こんなはずじゃなかった」という事態になりかねません。離れて住む親子の事例をもとに詳しくみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和が解説します。※プライバシー保護のため登場人物等の情報を一部変更しています。

父が急逝…「葬式の仕方がわからない」とパニックになるAさん

パート勤めのAさん(49歳)は、昼休みに入り携帯を確認したところ、知らない番号から何度も不在着信が入っていることに気づきました。

「なにこれ、気持ち悪い……」

不審に思ったAさんは電話番号を確認したところ、相手はなんと警察。嫌な予感がして電話をかけなおしたところ、その内容に思わず絶句しました。

「Bさま(父親)が路上で倒れ、病院に搬送されました」

聞くと、路上で倒れていた父親を通行人が発見し、救急車で運ばれたといいます。警察が身元を確認した際、手帳に緊急連絡先としてAさんの名前と電話番号が書かれていたとのこと。

電話を切るなり病院に飛んで行ったAさんでしたが、時すでに遅し。同じタイミングで駆けつけた叔母(Bさんの妹)と、しばらくそこに立ち尽くすしかありませんでした。

呆然とするAさんだったが…

あまりに突然のできごとに呆然とするAさん。叔母は、そんなAさんに優しく寄り添ってくれました。

「まずは檀家寺に亡くなった報告をして。それから、葬儀社に葬儀のお願いをするの」

そして、「あそこの住職は私と同級生だから」と言って、すぐに電話をかけてくれました。

電話の途中、叔母から「葬儀社や斎場はどこにする?」と聞かれましたが、Aさんには見当もつきません。Aさんの表情から察した様子の叔母は「OK。住職にお任せするわね」と言い、Aさんは素直に頷きました。

それから、医師から詳しい死因を聞き、警察からも事件性はない旨の連絡がありました。

自宅で亡き父を安置したあと、葬儀会社の担当者と葬儀の打ち合わせを行いました。担当者は、手際よく話を進めていきます。あっという間に葬儀の段取りが決まっていきました。

市営住宅に暮らし、パートで月収14万円。生活するのがやっとというAさんは、葬儀にお金をかけられません。葬儀の方法について聞かれたAさんは、以前なにかでみた「葬儀特集」を思い出し、葬儀費用がお値打ちだといわれていた「家族葬」を希望しました。

Aさんの提案に、担当者も了承。実家近くの「家族葬専用ホール」で、お通夜から初七日の法要まで行うことにしました。

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父の家にあった金庫…“衝撃の中身”に驚き

葬儀会社や叔母と相談の結果、亡き父Bさんにかかる葬儀費用は、寺院費用を含めて約70万円に。一般葬と比べると費用は抑えられたかもしれません。しかし、突如として月収5ヵ月分もの大金を支払わなければならなくなったAさんは頭を抱えました。

Aさんはシングルマザーで、都内で生活しているひとり娘(25歳)がいます。Aさんは、少ない収入から「娘が結婚するときに援助やお祝いを贈れるように」「自分になにかあったときに、娘に迷惑をかけないために」と、“へそくり”として定期預金を行っていましたが、今回の葬儀費用はやむなくここから捻出しました。

「こんなはずじゃなかったのに!」

Aさんは落ち込みながら、遺品整理のため実家へ向かいました。仕事の合間に片づけをはじめてから数週間後、Bさんが使っていた机の引き出しのなかに「手提げ金庫」を発見。その金庫には鍵がかかっていないようです。

「期待してはいけない」と思いながら金庫を開けると、なかには通帳が入っていました。通帳を確認したところ、父は貯金をほとんどしておらず、年金も月およそ6万円だったことがわかりました。

(え、たったこれだけ? お父さん、ちゃんと生活できていたんだろうか……)

がっかりした気持ちよりも、生前なかなか気にかけてあげられなかった後悔の念が押し寄せてきます。

しかし、金庫には通帳以外に、証券会社からの書類も入っていました。そこには、大手企業数社の株式運用成果の記載が。年金以外にも、株式の売買益と配当金で、単身とはいえ十分に生活が維持できていたようです。

さらに、金庫のふたの裏には、「Aと孫とで大切に使え」と、まるで自分が亡くなることを予見したようなメモが貼ってあります。

「父さんなりに、私たちのことを考えてくれていたのか……」

驚きながらも、ほっとひと安心のAさんです。

しかし、株式投資をしていたとなると、今度は相続税のことが心配になってきました。叔母に相談したところ、知り合いのファイナンシャルプランナーである筆者を紹介してもらったAさんは、筆者のFP事務所に相談に訪れました。