失敗をするとそれを引きずってしまい、次の挑戦に及び腰になってしまうことは、多かれ少なかれ誰にでもあることでしょう。年をとるとその傾向が強くなる人もいますが、精神科医の和田秀樹氏は「気に病む必要はなし」と言い切ります。今回は和田氏の著書『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)から、失敗したときのマインドセットについてご紹介します。
若き日の大失敗
私はときどき、「本職は何ですか?」と聞かれることがあります。精神科医、受験指導、作家など、さまざまなことに手を出しているからそう思われるのでしょう。私としては、どれが本職と思われてもかまわないのですが、もう一つ付け加えると、「映画監督」というのもあります。
あまり知られていませんが、これまでに3本の映画を撮ってきました。じつは映画監督になるのが、私の子どもの頃からの夢だったのです。
監督を始めたのは大学生のころ。16ミリ映画でしたが、プロの役者さんを招き、これで映画界に新風を吹き込むんだと意気込んで撮影に臨みました。しかし、やはりズブのシロウトですから、細かな段取りがなっておらずスケジュールが大幅に遅れてしまいました。
その結果、役者さんの事務所から「いつまで拘束するんだ」と激怒され、出演辞退を言い渡され、その映画はあえなく頓挫してしまったのです。
まさに大失敗です。自分のアホさ加減にあきれ、落ち込みました。
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他人の失敗なんて誰も覚えていない
でも、その失敗を引きずって、映画づくりをやめようとは思いませんでした。医学の道に進み、受験産業にも関わり、地歩を固めながら、またいつか映画を撮ろうとチャンスをうかがっていました。
その甲斐あって、紆余曲折ありましたが、『受験のシンデレラ』という映画を完成させることができました。この作品は、「とてもシロウト監督が撮ったとは思えない」というおほめの言葉をいただき、モナコ国際映画祭でベストフィルム賞(最優秀作品賞)という栄冠まで勝ち取ったのです。
最初の失敗のときには、私もさすがにめげました。人は私のことを笑っているだろうな、評価も下がっちゃったな、そもそも、こんなこと自分には無理だったのかもしれないな。もう映画を撮るチャンスなどないだろう……。
でも、よくよく周りを見ると、あることに気づきました。人は他人の失敗なんて、そんなに見ていない、覚えていない、気にしていない、ということです。
名監督と呼ばれる人たちが撮った作品のなかにも、当然、駄作はあります。しかし、人々に語り継がれるのはやはり名作で、失敗なんてみんな忘れています。あるいは、名作を語る際のエピソードのひとつになっている程度です。そう考えたら、気持ちがラクになりました。
失敗は次のチャレンジへの反省材料にすればいい。そう思い、私は立ち直ることができました。
和田 秀樹
国際医療福祉大学 教授
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表
一橋大学国際公共政策大学院 特任教授
川崎幸病院精神科 顧問