2024年、反響の大きかった記事からジャンル別にトップ10を発表。「乗り物で腹が立った話」部門、仰天の迷惑行為の数々から第9位の記事はこちら!(集計期間は2024年1月~10月まで。初公開2024年6月27日 記事は取材時の状況) * * *
限られた空間の中で赤の他人と隣あう電車内では、通勤や通学で日々大勢の乗客が交差している。利用者同士が関わることは滅多にないものの、満員電車となれば話は別。物理的に距離が近くなるため、意図せずとも面倒なトラブルに遭遇してしまう可能性はゼロではない。
山本翠さん(仮名・33歳)もその一人。話は大学3年生の時までさかのぼる。
「がむしゃらに就活していた時期でした。確かその日は金曜日だったと思います」
◆たまたまなのか、意図的なのか…
「終電で帰っていた日です。華金だったこともあり、東京から実家のある神奈川に向かう電車は飲み会帰りのサラリーマンたちで超満員。圧迫面接を受け心身ともに満身創痍な状態に、満員電車のストレスも加わり限界を感じていました」
それは疲労困憊の状態での出来事だったという。
「いきなり何者かが私のお尻を触ってきたのです。『こ、これは……!?』と思いましたが、満員電車だったので、最初はたまたま当たってしまっただけかなと思いました。しかし、電車が空いてきても何かがお尻から離れなくて……。自分の手を後ろに回し、当たっている何かをぶっきらぼうに振り解いてみてもまた触ってくるのです。意図的に触られているなんて考えたくないですが、何回か同じことを繰り返しこれはわざとなのだと悟りました」
◆痴漢の手を掴んで大声で叫んだ
山本さんが乗った路線は1駅1駅の間隔が長く、地獄のような時間を過ごしたという。
「それまでにも『これは痴漢なのだろうか、たまたま手が当たってしまっているだけなのではないだろうか……』と悩むことは多かったのです。でも、その時は何回振り解いてもまたお尻を触ったり揉んだりしてきて……。耐えきれなくなった私は、電車が横浜駅につく直前、お尻を触っている手を力強く掴み『痴漢です!!』と大声を出しました。すると、周りが一斉にこちらに注目。混んでいたにも関わらず、モーセの十戒のように人が避けてドアまでの道が開きました。心の底からキレていた私は絶対に相手の手を離しませんでした。近くにいた若手サラリーマンも協力してくれ、改札口まで一緒に連行しました」
相手を捕まえた時は必死で興奮状態だったものの、駅員に引き渡してようやく安心することができたという山本さん。
「改めて相手を見てみると、どこにでもいそうなメガネをかけたスーツ姿のおじさんでした。多分50代くらいだと思います。普通、『痴漢です!』と言われたら『えっ違いますよ!!』と全力で否定すると思うのですが、すごく落ち着いた様子だったんです。心の中では動揺していたのかもしれませんが、白を切るというか……。涼しげな表情に見えました。その時にこの人はどうやら初犯じゃなさそうだなと感じました」
◆深夜1時から事情聴取。相手は容疑を認めなかった
山本さんは駅員に事の顛末を説明。交番にも連れて行かれ、事情聴取を受けたという。
「話を聞いてくれたのは女性の警察官です。すでに時刻は深夜1時を軽く越えていましたが、遅い時間でも丁寧にビシッと対応してくれて。警察も大変な仕事だなと思いました。向こうの様子を訊いてみると、容疑を認めていないとのこと。『はぁ?』と、さらに腹が立ちました。まぁその後のことを考えると、相手もここで罪を認めるわけには行かないですよね。
警察官に『訴えることもできますが、どうしますか?』と聞かれました。どうしますかと言われても……。突如起こった出来事なので咄嗟に判断なんてできません。でも、別に訴えてお金が欲しいわけじゃない。私は『本人に罪を認めさせ、直接謝って欲しい』と伝えました。しかし、被害者と容疑者はその段階では顔を合わせることはできないとのこと。なんだかなと思いました」
◆人生で初めて「パトカーに乗った」
事情聴取を受けた山本さんはその後、パトカーで自宅まで送ってもらったという。
「パトカーに乗ったのは人生で初めての経験です。母は深夜に何事かと動揺していました。何もいいことは起こりませんでしたが、今振り返ってみるとドラマのような出来事だったなと。ただ、30代になった今、電車に乗っても痴漢をされることは全くなくなりました。当時『痴漢っぽいけどもし違ったらどうしよう……』などと謎の配慮をしていたのが馬鹿みたいです(笑)」
冤罪として濡れ衣を着せられる場合もあれば、本物の痴漢だって存在する。油断は禁物だ。
<TEXT/おせりさん>
【おせりさん】
下北沢に住む32歳。趣味はポーカーとサウナ、ホラー映画鑑賞。広告代理店・制作会社を経てフリーランスのブロガー兼ライターに。婚活ブログ『アラサー女の婚活談義』と生きることをテーマにした『IKIRU.』を運営中。体験談の執筆を得意としている。X(旧Twitter):@IKIRUwithfun