1日におよそ400社近くの法人が設立されている日本(東京商工リサーチ:2022年「全国新設法人動向」調査より)。起業は思っている以上に身近な存在です。ショッピングモールのアパレル店員として働く40代の女性が「交渉コーチ」として副業を成功させた背景には、なにがあったのでしょうか。経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が、事例をもとに解説します。

“普通のアパレル店員”が、3倍超の年収を稼ぐ「交渉コーチ」に

とあるショッピングモールのアパレルショップに勤める高橋美香さん(仮名・41歳)。彼女はいま、年収900万円を稼ぐ“エリート交渉コーチ”として注目を集めている。

ところが、少し前までの年収は約300万円と、現在の3分の1程度だった。特に目立った存在ではなかった美香さんが、なぜ「年収900万円」を実現できたのだろうか。

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美香さんの人生を変えた「後輩のひと言」

ある日、美香さんは後輩からこんな質問を受けた。

「美香さんって、どうしてお客様にそんなに信頼されるんですか? 自分は全然売れなくて……」

美香さんは「特に意識していないなあ。逆にどうしてだと思う?笑」と冗談交じりに返しながら、自分のこれまでの接客スタイルを振り返ってみた。

すると、自身が「お客様の表情や言葉の端々から、ニーズや本音を察して提案している」ことや、相手が「自分の意思で決めた」と感じるような自然な会話を意識していることなど、後輩からの客観的な分析も手伝い、彼女は改めて自分の強みに気づくことができた。

上司からは、どちらかというと「おっとりしている」「押しが弱い」と見られていた美香さん。10年以上同じ職場に勤めているが、昇進の話もない。美香さんが持つスキルは、職場内では特に評価されている様子はなかった。

しかし、後輩からのひと言が、美香さんを変えた。

「美香さんの接客見てると、すごく勉強になるし、私までその商品が魅力的に思えてくるんです。こういう講座があったら通いたいって思う人も多いと思いますよ」

考えてもみなかった選択肢だったが、美香さんはこの日をきっかけに、「自身の接客スキルが他の分野でも役立つのでは」と考えるようになった。