世帯年収が低い層は、もう家計のやりくりが限界

J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――2021年より「家計にゆとりがある」層が減っていますね。2024年は2021年より賃金が上昇しているはずなのに、それ以上に物価高が激しいのでしょうか。2021年はコロナ禍だったので何かと大変でしたが、逆に外出などで金を使わなかったことも影響しているのでしょうか。

川上敬太郎さん コロナ禍の真っただ中では出歩くことが少なくなり出費が減った面もありましたが、その裏で物価上昇はずっと継続してきています。一方で、賃金も上昇傾向にあったものの、物価高の勢いに追いついておらず、実質賃金は下回る状況が続いてしまっていました。

また、賃上げに積極的な職場とそうでない職場とがあり、賃金上昇の恩恵を感じられた人とそうでない人が二分された面もあるように感じます。

――「家計のゆとり」を年収別に2021年と2024年を比較した結果が不思議です。500万円未満より500万円以上のほうが、「ゆとりがある」と答えた人が大幅に減ったのはなぜでしょうか。

川上敬太郎さん 世帯年収が多いほど「ゆとりがある」と感じている人の比率が高い傾向にあることは、2024年も2021年も同様です。しかし、世帯年収が比較的少ない層は2021年の時点で「ゆとりがない」と感じていた人が8割を超える水準に到達していました。既に大半の人が厳しい家計状況におかれてしまっていたことになります。

その状況が、世帯年収が比較的多い層にも広がりつつあるということだと感じます。継続的な物価高に対して収入が変わらない、あるいは収入増が追いつかないままだと、これまでは家計にゆとりを感じられた層であったとしても厳しい状況へと追い込まれざるを得ません。

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家計のゆとりは、それぞれの「身の丈感」によって違う

――つまり、年収が低い層はすでに限界に達していて、そこに年収が高い層も近づいたというわけですね。

ところで、「家計のゆとり」を子どもの数で比較したグラフも興味深いです。子どもの数が多いほどゆとりがあるのは、なぜでしょうか。大昔は「貧乏人の子沢山」という言葉がありましたが、現在は子育てに大変なお金がかかるため、子どもの数が少ないほうがゆとりにつながる気がします。

川上敬太郎さん 基本的に、家計にゆとりを感じられるかどうかは世帯年収の多さとの関連性が強いように感じます。一方で、お子さんが多いほど食費や日用品などの生活費はもちろん、教育費用など何かと出費が増えます。

そのため、出費面だけを考えると、お子さんが多いほうが家計は厳しくなりますが、お子さんが多いほど相応の収入が必要となるため、結果としてお子さんの数と世帯年収の多さとが比例する傾向が見られるのかもしれません。

世帯年収とお子さんとの関係性には大きく2つの側面があると思います。1つは、世帯年収が多い方がお子さんをもうけやすい側面、もう1つはお子さんを授かったことで必要が生じて、より収入の高い仕事に就いたり、パートの時間を延ばしたりして世帯年収を増やすことになる側面です。

――なるほど。コメント欄では切実な意見が多く出ています。私は「どれか1つが負担になっているのではなく、全体的に圧迫されてきている」という意見が自分にピッタリでしたが、川上さんはどれが響きましたか。

川上敬太郎さん 「普段、節約を心掛けているので、金銭的には余裕があると思う。身の丈にあった生活をしている」というコメントです。この「身の丈にあう」という感覚は、ご家庭ごとに異なる点に注意が必要だと感じました。

旅行ひとつとっても、年に一度は海外旅行に行けるくらいが「身の丈」だと感じている人もいれば、数年に一度でも近場の国内旅行に行けるならば充分という人もいます。

また、周囲の方々とのお付き合いでお中元やお歳暮などのやりとりを頻繁に行う人もいれば、ファッションや食べ歩きが生きがいの人など、生活していく上で必要最低限の出費ラインをどこに引くかは、人それぞれです。身の丈感が人によって違えば、必要となる収入も異なってくるのだと思います。

そのため、家計にゆとりを感じるかどうかは一概に収入の多寡だけで決まるものではなく、人々の身の丈感によって大きく左右される面があるでしょうか。