大津綾香氏が“リポスト”訴訟で立花孝志氏に勝訴 「反社会的カルト集団」「尊師」表現は名誉毀損にあたらずと認定

1月15日、「NHKから国民を守る党」(以下「NHK党」)と党首の立花孝志氏が「みんなでつくる党」党首の大津綾香(あやか)氏を名誉毀損で訴えていた訴訟で、東京地裁は原告の請求を棄却する判決を言い渡した。大津氏の「勝訴」を意味する。

両者の争いの経緯

「みんなでつくる党」の旧名は「NHKから国民を守る党」(以下「旧N国党」)で、設立者は立花氏。現在のNHK党は別団体である。

2023年3月、ガーシーこと東谷義和参議院議(当時)に除名処分が下されたこと、また不正競争防止法違反や威力業務妨害など立花氏の有罪判決(懲役2年6か月・執行猶予4年)が確定したことを受け、党首が立花氏(当時)から大津氏へ交代した。

しかし、翌月には、会計の問題や代表権などをめぐって両氏は対立。

立花氏や旧N国党の幹部らは党の代表者としての地位を大津氏と争う訴訟を起こしたが、2024年3月、請求を棄却する地裁判決が下されている。

また、同年10月には、立花氏が大津氏につきまとい行為をしたとして東京地検に書類送検された。

一方で、昨年6月や8月には、大津氏のX投稿や記者会見での発言は立花氏に対する名誉毀損に該当すると認め、損害賠償の支払いを命じる地裁判決が出されている。

「尊師」表現はオウム真理教を連想させるか

本訴訟は、ジャーナリストの「選挙ウォッチャーちだい」こと石渡智大氏(以下「ちだい氏」)がXに投稿した内容を大津氏が再度投稿(リポスト)したことでNHK党と立花氏の名誉が毀損されたとして、大津氏に慰謝料160万円を請求したもの。

昨年6月に告示された東京都知事選で、NHK党は大津氏の顔写真を使用し「破産者みんなでつくる党」「大津綾香さん!」「お金を返してください!」などと記載したポスターを掲示板に貼っていた。

6月26日、ちだい氏は「反社会的カルト集団『NHKから国民を守る党』の尊師・立花孝志が貼り散らかしている大津綾香党首の顔写真を無断使用しているポスターは、小学校の前に貼られ、子どもたちにも見られている。子どもたちに『ストーカーのやり方』を教えてしまうため、非常に教育に悪い状態となっている。警察は放置。」と投稿。同日、大津氏がリポストした。

原告側は、大津のリポストによって立花氏やNHK党の社会的評価が著しく傷つけられたと主張。

また、「反社会的カルト集団」と「尊師」との表現を併せて読むと、地下鉄サリン事件などを起こした「オウム真理教」やその教祖であった麻原彰晃を連想させることから、ちだい氏の投稿は「NHK党はオウム真理教のように殺人を繰り返す危険な集団である」と主張しているも同然である、と訴えていた。

「反社会的」との論評は「重要な部分について真実」と認定

被告側は、立花氏が有罪判決を受けていることに加えて以下のような事実も指摘し、NHK党や立花氏に対する「反社会的カルト集団」や「尊師」などの論評は正当であると主張した。

・2013年、立花氏はNHKの委託会社の従業員に暴行をして検察官送致された

・2018年、立花氏や旧N国党の立候補者らがちだい氏に対してスラップ訴訟を提起

・2019年、動画投稿サイトで公開された対談で、立花氏が「アホみたいに子どもを産む民族はとりあえず虐殺しよう」「ある程度賢い人だけを生かしといて、後は虐殺して」などと発言

・2020年以降、立花氏は自身を麻原に、旧N国党やNHK党をオウムになぞらえるような言動を複数回行った

・2020年、立花氏は旧N国党について「法律を守らない政党であることを売りにしたい」「違法行為をする政党である」などと発言

・昨年の都知事選で、NHK党は関連政治団体も含めて合計24名の候補者を擁立し、公費で設置するポスター掲示板の枠を一般市民に売り出した

判決では「反社会的カルト集団」との表現について「攻撃的ではある」としながらも「原告が反社会的な集団である旨をいう本件意見論評は、その前提としている事実が重要な部分について真実であるということができる」と認定。

また、「尊師」との表現についても、先に立花氏が自身やNHK党を麻原やオウムになぞらえる発言をした流れを汲んだものにすぎず、「殺人を繰り返す危険な集団である」という主張と解することはできない、と認定した。

立花氏とNHK党は、ちだい氏本人に対しても「反社会的カルト集団」などの論評について名誉毀損で訴えていたが、昨年11月に請求を棄却する地裁判決が出されている。

判決後の記者会見で、ちだい氏と大津氏の両方の代理人を務める石森雄一郎弁護士は「原告の請求を全面的に棄却し、当方の主張を認める判決」「11月と同様の(勝訴)判決が出たことは、とても喜ばしい」と語った。

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29日には「会計不正」発言に関する控訴審判決

大津氏は、昨年の東京都知事選で、自身の顔写真を無断使用したポスターを自宅周辺に大量に貼られたことについて「選挙も利用した愉快犯のような所業だ」と表現。なお、本ポスターについて大津氏は立花氏らを名誉毀損で訴える刑事告訴を昨年9月に行い、受理されている。

大津氏は現行の政治資金規正法や公職選挙法には限界があると指摘し、「立花氏のような政治家を生み出す仕組みを変えなければならないと思い、戦ってきた」と語った。

「彼らの異常性をずっと訴え続けてきたが、メディアが十分に取り上げてこなかった。昨年の兵庫県知事選を受けて、ようやく伝わってきたようだ。

党首を交代して1か月もしないうちに、旧N国党のおかしさに気づいた。

立花氏らは嫌がらせの民事訴訟で相手を威迫する、という行為を繰り返している。司法に対する侮辱だ」(大津氏)

石森弁護士も、大津氏やみんなでつくる党が立花氏から多数の訴訟を提起されていることを指摘。昨年には、約30件の提訴があったという。

「こちらとしては嫌がらせにしか思えない訴訟も多くある。

しかし、訴訟を起こされてしまった以上は、過去に立花氏が行ってきた違法行為をどんどん認定してもらいたいと思って対応してきた。

立花氏が何をやってきたのか、司法の場で記録されるのはよいことだ」(石森弁護士)

29日には、大津氏が記者会見で行った「立花氏は会計不正を行っている」との発言は名誉毀損にあたるとして立花氏が提起した訴訟の、控訴審判決が出される予定。