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 勉強や仕事に集中できない、時間にルーズ、落ち着きがないなど2つ以上症状が当てはまると、注意欠如多動症(ADHD)の疑いがあるといわれている。子供に多い精神疾患といわれているが、アメリカやオランダで成人の間でADHDの検査を受ける人々が増えているという。

◆アメリカ人の17人に1人がADHD

 最近のアメリカ疾病対策センター(CDC)の報告によると、アメリカの成人約1550万人(およそ17人に1人)がADHDを患っている。

 ADHDの症状としては、仕事に集中できない、責任をうまくこなせない、計画を立てて時間を管理するのが苦手というもの。また、落ち着きのなさ、気分の落ち込み、衝動性で人間関係をこじらせるという人もいる。

 アメリカではADHDは子供たちが最もよく診断される精神疾患とされ、700万人以上の子供たちが診断されている。ADHDの症状は、子供の成長とともになくなると考えられていた。しかし、専門家によれば、多くの人は子供の頃には診断されず、大人になってからも症状を抱えたまま生活しているという。

 米オハイオ州立大学を拠点とする精神科医のジャスティン・バーテリアン氏は「我々のクリニックではこの2年間で検査の申し込みが倍増している」と話す(AP、1/27)。

 2013年にアメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)が変更され、ADHDの定義が拡大し、患者に該当する症状の項目数が減ったこともあり、パンデミック前からADHDの診断件数と処方件数は増加していた(AP)。

 ADHDの診断には、血液検査や頭部MRIは用いない。専門家によれば、生活の複数の領域で継続的な問題を引き起こし、その症状が思春期以前の子供時代からみられる場合に診断される。

◆検査増加の背景にソーシャルメディア

 一方、オランダでもADHD検査の需要が増加傾向にある。NLタイムズ(2/5)によると、特に若年層での増加が顕著で、検査を希望する女性も増えているという。医薬統計財団によると、ADHD治療薬の処方件数は、過去5年間で大幅増となり、特に女性ではその割合が増加している。

 検査依頼の急増の背景には、ADHDに関連する症状を論じるソーシャルメディアコンテンツが大きく関連しているといわれている。一般開業医によると、このようなオンライン上の議論を見て、自分がADHDであると考える患者が増えているという。(同)

 アメリカでもここ数年、ソーシャルメディア動画やオンラインの簡易診断テストを提供する医療ベンチャー企業の急増が影響し、過剰診断になっている可能性が指摘されている。専門家は、心理学者や精神科医が患者や患者を知る人々から注意深く病歴を聴取して診断することが理想的だとするが、心療内科の専門家の予約を取るのに数ヶ月、診断評価には最大数千ドルもかかるため、多くの患者はかかりつけ医やオンライン診断に頼るのが現状だという。(AP)

◆物忘れや衝動は正常な反応

 オランダの児童・青少年心理学者のマルー・フランケ氏は、ADHDに関するオンラインコンテンツがメンタルヘルスへの意識を高め、しばしば物忘れや衝動性といった行動を障害の兆候として描いていると指摘する。「物忘れや衝動性は、人としての正常な部分でもあるのです」と述べ、いくつかの症状にチェックを入れるだけで判断できるほどADHD診断は簡単なものでないと注意を促している。(NLタイムズ)

 また、現代社会での高い期待や絶え間なく押し寄せる刺激のせいで、若者が集中力に欠けるのはよくあることだと指摘する。「気が散るものがたくさんあるなかで、若者が1時間も集中できるのはむしろ異常なこと。でも、それが私たちの期待する基準なのです」(同)

◆ADHDと平均寿命

 最近、イギリスの心理学協会が刊行する「イギリス心理学」に発表された研究によると、ADHDの成人は寿命が著しく短くなる可能性があることが分かった。

 研究者らは、イギリスの792の一般診療所のデータを分析した。ADHDと診断された3万39人の成人の死亡率を、30万390人の対照群と比較した結果、 ADHDと診断された男性では平均6.8年、女性では8.6年寿命が短いと推定されることを突き止めた。

 研究者がADHDと診断されたイギリスの成人の平均余命を推定したのは今回が初めて。ただ、正式なADHDの診断を受けた人のみに焦点を当てており、相当数の未診断例は結果に反映されていない。

 ADHDが寿命を縮める要因について、ジャージーショア大学医療センターの精神科主任研修医ネイサン・キャロル医師は、一つの潜在的な要因は、投薬による長期的な影響だと述べ、「ADHDの治療は、多くの場合、心血管系に影響を及ぼす刺激薬で管理されており、寿命を縮める可能性がある」と指摘する(ヘルス誌、2/4)。

 2023年の研究では、ADHD治療薬の長期服用が高血圧や動脈疾患のリスク上昇と関連していることが明らかになっている。この研究では、ADHD治療薬の使用年数が1年増えるごとに、心血管疾患の発症確率が4%上昇し、最初の3年間で最もリスクが高くなり、その後安定することが報告されている。