貯金残高を維持するために「アルバイト」を始めたが…

貯金残高が目減りしていく焦燥感に耐えられなくなった東山さんは「せめて1億円の残高を維持したい」と、工場でのアルバイトを始めました。

座っての単純作業だったことから体力的には問題なかったものの、周りの若者や外国人スタッフとうまくなじむことができず、苦労しました。

「年金受給までの辛抱だ……」

そう考えた東山さんでしたが、これまで節約のため人付き合いを避けていたせいでコミュニケーションの取り方がわからず、ただ疎外感を感じるばかり。結局、お金よりも「孤独感」のストレスが大きくなり、アルバイトは長く続きませんでした。

「寂しさを紛らわすためにも趣味を探さなければ」と考えた東山さん。図書館やインターネットで調べているうちに目に留まったのがコーヒーでした。

「自分で豆から挽いてコーヒーを淹れてみるのもいいかもしれないな」

コーヒーを趣味にするべく、本格的に道具や豆を集めようと専門店に出かけた東山さんでしたが、購入前に気持ちが冷めてしまいました。

「ドリッパーもミルも、思ったより高いな……」

頭では「こんなに貯めたし、少しぐらいお金を使ってもいいだろう」と思いながらも、「いつどんな出費があるかわからないのに趣味にお金を使っていいのか」「毎月赤字なのに、さらにお金を使っていいのか」と、長年しみついた節約志向が邪魔をします。

資産の目減りを食い止めようとアルバイトを始めても長続きせず、趣味を持ちたいと思っても「お金がかかる」という理由で踏み出せません。

そんな状況に東山さんのストレスは増すばかりでした。

貯金が1億円を割り、焦りがピークに

東山さんが定年退職して1年ほど経ったある日のこと。久しぶりに銀行で記帳をしたところ、残高が「1億円」を下回っていました。

これを見た瞬間、東山さんに残されていた「俺には1億円がある」という余裕が失われ、急激な不安と焦燥感が襲いかかってきたそうです。

「どうしよう……このまま金が減っていったら正気を保てないかもしれない」

抱えきれない思いに苛まれているとき、ふとファイナンシャルプランナーの存在を思い出しました。

「昔両親が資産管理について相談していたFPがいたな……相談費用は安くないけれど、背に腹は代えられない」と、東山さんはすぐにFPに連絡を取りました。

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いますぐお金を捨てたいくらい…FPに打ち明けた「悲痛な胸の内」

数日後、東山さんはFPのオフィスを訪れ、自身の悲痛な胸の内を打ち明けました。

「私はこれまで、質素・倹約の人生でした。贅沢はせず、趣味もなく、ただお金を貯めることだけを考えて生きてきました。だからですかね、貯金が減ることが怖くてたまらないんです。働こうと思っても続かないし、なにか新しいことをしようとしても、お金が減るのが嫌で結局できない……もうストレスでどうにかなりそうです!」

いままで誰にも言えなかった不安や焦燥感が、次から次へと溢れます。

「できることなら、いますぐにでもお金を捨てたいですよ。残高が減るたびにストレスを感じるくらいなら、いっそのことすべて失ってしまえば楽になるのかなって。まあ、そんなことは絶対にできませんがね」

それを聞いたFPは微笑みながらこう答えました。

「これまで築いてきた大事な資産が目減りすることは、誰しも抵抗を感じるものです。実のところ、東山さんのような相談は意外と多いんですよ」

「多くの人は、お金が尽きる未来に漠然とした恐怖心を抱いています。しかし、具体的にどれくらいのペースで資産が減るのかを把握している人は少ないんです。そこで、将来の資金の推移を可視化することで、東山さんの不安はいくらか軽減できると思います」