
脳科学者の恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)さんは、2023年5月、認知症のため8年間介護してきた母・恵子(けいこ)さんを亡くしました。娘として、脳科学者として母と向き合ってきた恩蔵さん。家族としての心の揺れと、脳科学から見た認知症について伺いました。全3回でお届けします。
恩蔵絢子さんのプロフィール

撮影=中川まり子
おんぞう・あやこ
1979(昭和54)年神奈川県生まれ。脳科学者。2007年東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程を修了、学術博士。専門は自意識と感情。母親が認知症になったことをきっかけに、生活の中で見られる症状を記録し脳科学者として分析した『脳科学者の母が、認知症になる』(河出書房新社刊)を18年に出版。近著に『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか』(中央法規出版刊)など。
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脳科学者として母と向き合い見えたこと
母に認知症の症状が現れてから、母が私の知っている母ではなくなってしまうのではないかということがずっと不安でした。
結論から言うと、さまざまなことができなくなってしまっても、やさしい母の母らしさというものはずっと変わらずに残っていることに気付けました。嫌なこともつらいこともたくさんありましたが、自分には見えていなかった母の母らしさに出合えた8年でした。
今、本当に母が恋しいです。母に会いたい。これほど母と深く過ごした時間はそれ以前にはなかったと思います。亡くなって半年ほどの今はまだ、認知症になってからの母のイメージが強いですが、それ以前の母のことを必死で思い出そうとしています。何か一つでも取り戻せたらうれしい、そんな毎日を過ごしています。
母が認知症になる前から、私は脳科学者として感情を専門に脳の研究をしてきました。一人の娘として、そして脳科学者として母と向き合い、見えてきたことをお話ししたいと思います。