
「離婚」の二文字が頭から離れない

振り返れば30代、子育てで忙しいときに夫は仕事が多忙で家庭を顧みなかった。それだけではない、浮気疑惑が生じたこともある。ヨシエさんは今でも、夫は絶対に浮気をしていたと感じているが、当時はうまくはぐらかされた。経済的に夫と別れられないことがわかっていたし、夫に不機嫌になられるのがイヤで深く追求はしなかった。
「子どもたちが少し大きくなった40代は、何かあると『おまえの育て方が悪い』と言われていました。今なら信じられないような言葉でしょうけど、当時、専業主婦の妻は何も言い返せませんでしたよ。子どもたちが大きくなったら、いつか自由になりたい。そんなことばかり考えていました」
そしてコロナ禍を経て、夫は昔から全く変わっていないことを痛感させられた。家で快適に過ごせないのは、すべて妻のせい。自分は「家族を養う」という大事業を一人でやっているのだから、あとの家族はみんなオレに従え。夫はずっとそう思ってきたのだろう。
子どもたちが大きくなった今、彼らは夫の知らないことも知っている。若い能力にはかなわないところもあるから、夫の支配欲のすべては妻に向かう。
(広告の後にも続きます)
定年退職のタイミングで離婚したい

「夫が定年退職したら離婚したい。今ははっきりとそう感じています。でも経済的には難しいでしょうね。今さら仕事も見つからないでしょう。娘にちらっとそんな話をしたら、『やる気さえあれば家事代行業だってできるし、お母さんは料理が上手なんだから人の家に行って料理を作る仕事だったできると思う。一人で生きていく覚悟があるかどうかの問題じゃない?』と言われました。娘はよく見ていますよね」
まずは何か一歩踏み出してみようか。ヨシエさんはそう思うようになっている。自分にできるのは家事業だけ。それならそれを仕事に生かせばいいのだ。
「まだまだ決意が甘いんですけど、自立する手もあるんだとわかってから夫の文句にいちいち反応しなくてすむようになりました。夫の定年は65歳なので、あと数年。夫は会社でどれだけ活躍できるか必死みたいですけど、私は私で自立の道を進んでいこうと思っています」
老後は決して短くない。第二の人生を夫に支配されながら過ごすのか、生活レベルは落ちても自分の尊厳を取り戻すのか。ヨシエさんは「コロナ禍を終えて大事なものが見えてきた」と話してくれた。
取材・文=亀山早苗