雪まつり「イギリス人配信者」がスタッフに雪玉を投げつけ騒動… 外国人の“暴行”へ政治団体代表の「刑事告発」は“ヘイト”か?  “真っ当”な行為か?

2月に開催された「さっぽろ雪まつり」で外国人男性が動画を配信しながらスタッフの顔に雪玉を投げつけるなどの迷惑行為をした事件に関して、3月5日、北海道警察は男性に対する刑事告発状を受理した。

イギリス人配信者が日本人スタッフに雪玉を投げる

2月8日午後1時ごろ、当時開催されていた「さっぽろ雪まつり」の会場内にあったコカ・コーラ社のブースで、イギリス国籍の男性が動画を生配信しながら、作業を行っていた日本人スタッフの顔に雪玉を投げつける。

男性は動画ライブ配信サービス「Kick」に「DBR6」のハンドルネームでチャンネルを解説していた。配信された動画内では「次に自動販売機の前に来たヤツに(雪玉を)お見舞いする」などと発言しており、故意であることは明白な状況だった。

雪玉を投げつけられたスタッフは抵抗しなかったが、直後に外国人の男女が制止に入り、配信者に英語で抗議を行う。その後も配信者は日本人スタッフや制止に入った外国人男女を追いかけて挑発するなどの迷惑行為をしていたが、警察官が現場に来たのを見て立ち去った。なお、警察官は実況見分などの対応をしていない。

ネット上では「雪玉を投げつけられた後にスタッフは唇から出血していた」との声も見られる。一方、事件後の報道によると、雪まつりの主催者である札幌市は「ケガはなかった」と認めて、警察に被害届を出さないと発表。「雪まつりでこのような行為は控えてほしい」とのコメントを出し、会場周辺の見回りを強化する対応で済ませている。

政治団体代表が署名を呼びかけて刑事告発

2月14日、「和歌山ブルーリボンの会」や「本間奈々と和歌山の未来をつくる会」など政治団体の代表をつとめる本間奈々氏が、配信者を刑事告発する旨を自身のXアカウントで発表し、署名をつのった。

「雪まつり会場で傷害事件を起こしたDBR6を刑事告発します。

私1人だと警察も深刻に受け止めないので、賛同の署名を集めています。

紋別アイヌが密漁した時も署名を集め刑事告発したら賛同者が多いこともあり書類送検されました」(本間氏の投稿から)

同月17日までに1689名の署名が集まり、翌日、本間氏は「刑事告発状と署名を提出してきました」とXで報告。

3月5日には、告発状が北海道警察に正式受理されたと報告し、「外国人迷惑系ストリーマーには厳正な対応を!」と呼びかけた。

人に雪玉を投げる行為は「暴行罪」

そもそも、雪玉を投げつけた配信者の行為はどのような犯罪に該当するのだろうか。

刑法に詳しい杉山大介弁護士は「まず、暴行罪の可能性があります」と語る。

「法律上、暴行は『人の身体に対する不法な有形力の行使』と定義されています。そして、ぶつけるのが雪玉であろうが梅干しの種であろうが『暴行』に該当するのです」(杉山先生)

次に、暴行によって被害者がケガをした事実が証明されたら「傷害罪」に該当する。

なお、暴行罪の刑罰は、2年以下の懲役・30万円以下の罰金・拘留・科料のいずれか。一方、傷害罪の刑罰は15年以下の懲役または50万円以下の罰金だ。

「本件では、被害者が出血したという話もあります。しかし、傷害罪として扱うためには『治療に一定の期間を要する程のケガであった』という事実の立証が必要になります。

今回は、仮にスタッフの方がケガをしていたとしても後から立証することは困難であるため、立件されるとしても暴行罪になりそうですね」(杉山弁護士)

第三者でも「告発」が可能な理由

本件の直接の被害者は雪玉を投げつけられたスタッフや、雪まつりを開催していた札幌市だ。なぜ、第三者である本間氏が刑事告発をすることができるのか。

刑事訴訟法により「告訴」は犯罪の被害者しか原則できないとされている(230条)。一方、「告発」は第三者でも可能だ(239条1項)。

そして、被害者による告訴か第三者による告発であるかに関わらず、受理した警察は速やかに事件を検察官に送致しなければならない(242条)。その後、検察官によって起訴か不起訴かが判断されることになる。

なお、器物損壊罪や名誉毀損罪など「親告罪」とされる犯罪の場合には、被害者やその法定代理人(弁護士など)からの告訴がなければ検察は起訴できない。つまり、親告罪は告発することができない。一方、暴行罪や傷害罪は非親告罪であるため、告発が可能だ。

刑法の目的は「被害者救済」ではなく「社会秩序の維持」

非親告罪であっても、刑事事件として起訴され裁判になれば、被害者の出廷が必要になる可能性がある。ただし、被害者本人が裁判を嫌がっている場合には、無理に出廷させることは避けるべきだとされている。

「本件については配信された動画という証拠もあるため、少なくとも暴行行為については被害者本人の証言などがなくとも、動画から立証できる可能性があります。

したがって、裁判になった場合に、被害者が無理を強いられる程度は低いかもしれないと感じました。法に定めるとおり、だれが告発しても弊害は少ないタイプの事件だと思いますね」(杉山弁護士)

実は、刑法や刑事事件の手続きは「被害者の救済」を目的としておらず、あくまで社会の秩序を維持することを目的にしている。

「だから、第三者であっても市民が『犯罪を止めてほしい』と願い、それを警察に求めることは原則として許容されるのです」(杉山弁護士)

「ヘイト」と批判する声もあるが…

本間氏は2019年にも「アイヌの男性が禁漁期間にサケを密漁している」と刑事告発を行い、その際にも署名を集めている。

また、本間氏は過去には右翼団体の集会にも出席するなど、政治的には右派の立ち位置にいる人物だ。

そして、政治団体の代表者が署名を集めたうえで外国人を刑事告発するという行為に関して「ヘイトに使うだけだ」と批判する声もある。

一方、杉山弁護士は「結局のところ、まともな告発なのかどうか、ということだと思います」と語る。

「本件では犯罪行為がありました。また、『犯罪行為を配信することで集客し、収益を上げる』という、昨今では社会的な問題性が高い背景も重なっています。さらに、現場に居合わせた警察官が適切な対応をできていなかったという要素もあります。

したがって、仮に本間氏に政治的なパフォーマンスなどの目的があるとしても、本件自体が告発されてしかるべき事件であるため、告発そのものは正当だと考えます」(杉山弁護士)

ただし、私人逮捕や名誉毀損などの犯罪行為によって収益を上げている配信者は外国人に限らず、日本人にも多数いる。「本件をもって外国人をことさらに非難の対象とするのであれば、そこは問題でしょうね」と、杉山弁護士は補足する。

「数年前の『アイヌ』や、昨今では『在日クルド人』など、特定の属性を持つ人々に対して『犯罪行為をしている』などと問題が指摘されている時には、警戒心を持って接すべきだと思います。

まずは、その指摘されている問題に虚偽の事実が混ざっていないか否かを確認すべきでしょう。だれかを狙いたいという意思は、事実をどこかで歪めますから。

しかし、それをふまえても、本件は、真っ当な告発だと考えます」(杉山弁護士)