
家の借金を返済するため、高校を1年で中退しマグロ漁船員になった筆者。3つの船で近海マグロ漁を経験すると、初めての遠洋マグロ漁船に誘われます。そこでは、今までやったことのない作業があったり、他の船員から暴力を受けたりと、悩み事も多かったとか。菊地誠壱氏の著書『借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました』(彩図社)より、詳しくみていきましょう。
いとこのヤンキーと一緒に乗船
両親のアワビ事業が台風被害で失敗し、5,000万円の借金を背負うことになった菊地家。
当時17歳の筆者は借金返済のためマグロ漁船員として働き、ついに一人前として認められました。
そんななか、いとこの秀樹ちゃん※からの航海の誘いに二つ返事で承諾。
しかし、誘われたのは今までのような近海マグロ漁船ではなく、筆者がまだ経験したことのない「遠洋マグロ漁船」だったのです。
※…筆者のいとこ。以前、筆者を18秋洋丸に乗り一緒に漁に出たヤンキーの先輩である安広の弟。
68秋洋丸※を上がって休暇を取り、いとこの秀樹ちゃんのところへ遊びに行っていると、仕事の話になりました。
※…筆者がこの前に乗っていた船。マグロ漁船員は一つの船に留まらず、3航海ほどで船を変えるのが普通。
「今おめえ何やってんのや、仕事」
「今マグロ上がって休みだよ」
「だったら一緒に行くか? 4か月航海だけどよ」
「うん、わかった。いいと思う」
こんな感じで私は二つ返事で秀樹ちゃんの誘いに乗り、次の仕事が決まりました。秀樹ちゃんとならいいかな、とあまり深く考えずに決めました。しかし、この安易な判断が良くなかったな、とのちのち後悔することになります。そもそも私は秀樹ちゃんとはあまり仲良くありませんでした。
お兄さんの安広くん※とは仲が良くて、なんでも言えるし気を遣わず付き合える兄貴のような存在だったのですが、秀樹ちゃんは違いました。
※…筆者のいとこである秀樹の兄。筆者より2つ年上で、身長が高く不良らしい見た目。以前18秋洋丸に一緒に乗っていた。
秀樹ちゃんは少年ヤクザと呼ばれるくらい気が短く喧嘩っ早い性格で、安広くんと違って暴力的という印象が強かったのです。吊り上がった細い目で髭を生やしていて、中村獅童に似た顔で見た目も結構怖いです。
秀樹ちゃんは1つ年上で中学校でも先輩なのですが、秀樹ちゃん1人の力で地元の不良の間でもうちの中学の名前が轟いていたと思います。私の同級生もだいぶヤキを入れられていましたし、いろいろな噂も耳にしていました。
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筋金入りのヤンキー秀樹ちゃんの“武勇伝”
「隣町の有名な不良のAくんが秀樹ちゃんにヤキを入れられた。XJ400に乗って日章カラーのジェットヘルを被って『ゴラー! テメー!』とか言いながら追いかけられたらしい」
とか、そんな噂をよく聞いていました。間違いなく筋金入りのヤンキーです。
秀樹ちゃんのバックも得体が知れなくて、名前が出るのは有名な人ばかりでした。付き合いが悪くなったという理由で不良たちが秀樹ちゃんの部屋に上がり込んでいきなり秀樹ちゃんを殴るとか、単車で遊んでいたら車で来て秀樹ちゃんが拉致られるとか、秀樹ちゃんの周りには怖い先輩方がいて、不穏な話が絶えませんでした。
こんな感じの秀樹ちゃんなので、気を遣わずに付き合えるという感じにはなりませんでしたし、私とは相性がよくないと思っていました。
とはいえ、マグロ漁船に一緒に乗った英雄さん※やその友達の組長さんと仲良くなれたのは、この秀樹ちゃんを通してでした。組長さんと秀樹ちゃんは一緒にマグロ漁船に乗船していたこともあるそうです。不良のネットワークというわけですね。
※…リーゼントパーマをあてていて、色黒で身体が大きく、迫力のある外見。喧嘩が強く豪快で、筆者の地元では有名人。筆者を18秋洋丸での航海に誘った。