
公共の場を本来の目的とは違う用途で活用すると、なかには迷惑に感じる人も。捉え方は人それぞれなので、すべての人が完璧に安心して利用できる公共の場を成り立たせることは難しいでしょう。最も重要なことは、いろんな捉え方をする人がいることを理解することかもしれません。本稿では、人気プロダクトデザイナー秋田道夫氏の著書『仕事と人生で削っていいこと、いけないこと』(大和出版)から一部抜粋・再編集し、スマホやPCとの適切な付き合い方をみていきます。
「大人」には「考えない時間」も大切
「有意義なことをして隙間時間を埋める」という考えは、わたしにはありません。
新幹線の座席でノートパソコンを開き、せわしなく作業している人。他人との関係性を考えると、あれほど身勝手なことはないですね。とにかく、キーボードの音がカチャカチャうるさい。特に静かさを手に入れるためにお金を払ってグリーン車に乗っているときはなおさらです。横であんな音を立てられていたら、気が休まりません。わたしはその「静かさ」を手に入れるためにノイズキャンセラータイプのイヤフォンを買いましたが、面白いもので「耳が微かすかな音を聞きに行く」んですね。絶対的な無音にはならない。
大人とは、おとなしい人、音がない人だと思っています。いずれにしろ「公共の場所」で大声を出して話したり、音を立てたりするのも、大人げない行動だと思います。「静かな人」は素敵ですよ。
隙間時間に話を戻すと、わたしにはぼーっとしていることが大切なので、移動時間はできるだけぼんやりしています。何も考えなくていいようなスマホゲームをしていることもあります。ゲームをしているほうが、逆に何も考えなくてすみますから。
「考えない時間を持つこと」がすごく重要だと思います。漫然と頭を使っていると、考えなくてはいけないことに対する思考の密度が下がってしまいます。こんなふうにクールダウンして、次の「ラウンド」に備えましょう。
昼間集中できずに残業をしても、結局、翌日の出張先での顧客へのプレゼンテーション資料が完成しないで、眠い目を擦りながら新幹線に乗って、なんとか打ち合わせに間に合わせようとノートパソコンを開いてカチャカチャやって。その挙句に上司から「資料はまだ?」と催促の電話がかかってきて、デッキで言い訳の返事をして、席に戻ってコーヒーを飲んで「あーあ」と別の意味でぼーっとしている……。余裕がないですね。
コーヒーチェーンのスターバックスでは「仕事をしているかっこいい自分の姿をみんなにアピールする晴れ舞台」と思っていそうな人を見つけることも容易です。もちろん、ちゃんと仕事をしている人もいるのはわかっていますが、わたし自身は人の目があるところでは集中できません。これは動物としての人間を考えても、食べ物が取られそうなところでゆっくりと食事(仕事)ができないのは道理です。
コーヒーショップは「コーヒーの味を楽しむところ」です。つまり、ここで言いたいのは、「考えない時間」「集中する時間」を持ちましょう、ということです。
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「スマホ」と共に生活する時代…切り離すのは逆効果
スマホやテレビの見すぎをなんとかしたい。「これだけ」と利用時間を決めても、なかなか守れない。これ、よく聞く話です。わたしは、だらだらとスマホもテレビも見るぐらいなら、徹底して飽きるまで見たほうがいいと思います。本当にいやになるまで。それでも変わらないなら、それはひとつの「才能」だと思います。ですから、あえて「徹底的に見てみる月」を作ってもいいかもしれません。
今から10年ぐらい前に、大学でデザインを学ぶ学生のみなさんに「スマホと暮らす」という課題を出したことがあります。わたしは「楽しくスマホといい関係で過ごすのに役立つ製品」を考えてほしいと思って課題を出したのですが、多くの学生さんが「一定時間経つとスマホを使えなくなる装置」といったものを考えていて、スマホを使っていることに対して、大人が好意的に思っていないような「勘ぐり」をしたようで、びっくりしました。もちろん、なかにはスマホスタンドなど、快適に使える作品もありましたが。
スマホを否定することを前提とした受け止め方を残念に思って、「みなさんの本心と真逆ですね。なぜ『使ってはいけない』と思ったんですか」と提言しました。というのも、わたし自身はスマホを敵だとは全然思っていないからです。実際、今は、公共料金や税金の申請までスマホで操作したほうがやりやすい時代になりましたから、「楽しくスマホを使って、いい関係で過ごす」という捉え方は「時代の流れに沿っていた」と思います。でも、その日のわたしの言葉は、彼らにとっては目からウロコというか、寝耳に水ぐらいにショックだったようです。
デザインは「次の時代の当たり前」を考えないといけない仕事です。スマホはもはや日常に欠かせないものになっているのだから、無理に切り離そうとするより、楽しく快適につきあう方法を考えたほうが建設的ですよね。
秋田 道夫
プロダクトデザイナー