事故物件を発生させないためにオーナー側ができることはあるのでしょうか。本稿では、事故物件を専門に扱う「成仏不動産」を展開する花原浩二氏、税理士・公認会計士の木下勇人氏、税理士・不動産鑑定士の井上幹康氏による著書『不動産オーナー・管理会社のための 事故物件対応ハンドブック』(日本法令)より、「事故物件」にさせないための賃貸人(大家)側の対策について詳しく解説します。

賃貸人(大家)側が最低限できること

事故物件をなるべく発生させないために賃貸人(大家)側ができることは実際に限られていますが、いくつかあげてみます。

孤独死

(ⅰ)見守りサービスの導入

孤独死による事故物件化を回避するためには、賃借人が亡くなった際に発見を早くすることが必要になり、見守りサービスなどの賃借人の異常を検知するサービスを取り入れることがとても有効です。人感センサーのようなものから、水道や電気メーターを利用したもの、最近ではスマートフォンを指定した一定期間触らないと通知が届くような見守りシステムも生まれてきています。

日本国内では、今後孤独死が増えることが想定されることから、ビジネスの可能性を狙う企業も多くあります。海外の企業も参入し始めており、今後さらに孤独死を回避するための良質なサービスが展開されていくことも期待されます。常にアンテナを高くし、積極的に見守りサービスを導入することをおすすめします。現在の見守りサービスの詳細については後述します。

(ⅱ)リフォーム等による建物の改善

孤独死が発生しやすい建物の特徴として、カビが発生しやすい建物ということがあげられます。仮に所有している建物で室内にカビが生えているような場合は、24時間の換気システムを後付けするなど、通風を改善することが有効です。

また、日光を浴びる生活は幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌を促すことから、賃借人の生きる活力を後押しします。建物周りに高木があれば伐採し、リノベーションで窓を大きくできないかなど、日光を取り入れる工夫をしてみてください。どうしても日当たりが悪い場合、内装を暖色系などの明るい色に変えるだけでも賃借人の気分は変わります。住環境の改善は賃借人の精神的な改善に繋がりますので、是非取り組んでください。

(ⅲ)ごみ屋敷になっていないか定期チェック

孤独死発生のもう一つの因子として、ごみ屋敷があげられます。数多くの孤独死の現場を見てきていますが、ごみ屋敷は非常に多いです。逆にいうと、ごみ屋敷の改善をするだけで防げる孤独死があるということだと思います。定期的に所有している不動産を巡回し、ごみ屋敷になっていないかのチェックを行い、必要があれば改善を促すようにしてみるとよいでしょう。

(ⅳ)賃借人と定期的なコミュニケーション

孤独死はその名の通り、孤独な状態で亡くなります。誰とも話すことなく、世間と隔離された状態が悪影響を及ぼします。定期的なコミュニケーションの場を設けたり、イベントや賃借人同士でのコミュニティを作ったり、何かしらの工夫をしてみるのも一つです。

②自殺

自殺の場合はうつ病などの精神的な問題が原因で発生することが多いため、孤独死の対応と同じく、前向きに生活を送ってもらうための対応が必要になります。つまり、「自殺しづらい部屋にする」ということです。

自殺で亡くなる方の大半は、縊死(いし)を選択します。縊死の場所として多いのは、ロフト部分のバー、ドアノブ、クローゼットのパイプハンガーなどになります。クローゼットのパイプハンガーは無くせませんが、耐荷重の小さいタイプに変更したり、ドアノブの無い引き戸に変えたり、ロフトを収納に変えるなど工夫することで抑止力にはなると思われます。

③殺人

賃借人が犯す殺人事件を防ぐことは非常に難しいのですが、ここでは、外部からの犯罪を防ぐことを目的にまとめます。

(ⅰ)道路などから見通しの良い環境の整備

建物の窓など侵入を試みる場所が外部から丸見えの場合、隠れている場合に比べ侵入に抵抗感が生まれます。建物周りの植栽の伐採や塀の撤去など、解放感のある外構計画が望ましいでしょう。

(ⅱ)防犯カメラの設置

犯罪の抑止力としてはかなり有効です。

(ⅲ)セキュリティシステムの導入

同じく犯罪の抑止力として有効です。賃借人の募集もしやすくなるというメリットがあるため、検討してみるのもよいでしょう。

殺人事件の発生を防ぐには、外部から人が侵入されにくい建物であることが条件の一つになります。このことについては、防犯アナリストの梅本正行氏が研究を続けており、実際に「殺人が起こりやすい物件」のパターンについて解説されている著書も多くあります。

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見守りサービスの市場規模

厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、2019年6月の全国の世帯数は約5,179万件あり、65歳以上の人がいる世帯数は約2,558万件と、全世帯数の49.4%を占めています。そのうち、65歳以上の独居世帯は約737万件あり、今後も増加する見込みです。

株式会社シード・プランニングが発表した「高齢者の見守り・緊急通報サービスに関する調査」では、高齢化社会に比例して増える独居世帯における見守りサービスの需要が今後拡大するという調査結果を発表しています。

高齢者見守り・緊急通報サービス市場(介護施設向け+自治体向け+家庭・個人向け)は、2020年に262億円、2030年には381億円に拡大すると予測。介護施設向けの市場は、行政の介護施設への補助金や、システム導入による夜間人員配置基準の緩和により、市場が拡大期を迎えた。今後は補助金終了後に備えた戦略の準備が必要。自治体向け市場は厳しい環境だが、独居高齢世帯の増加にともない、堅調に拡大する。家庭・個人向け市場は、コロナ禍以降、会えなくなった親子の非接触・リモートコミュニケーションのニーズが顕在化・増大した。IoTデバイスや会話ロボット、賃貸物件で孤独死を防止する安否確認サービス等、目的に応じた製品・サービスが多様化しており、今後の開拓余地は大きい。

(「高齢者の見守り・緊急通報サービスに関する調査」より)

総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済は、『注目「高齢者」施設・住宅&介護関連市場の商圏分析と将来性2018』のレポートを発表し、高齢者/介護関連製品・サービス市場は251第7章事故物件を出さないための賃貸人(大家)側の対策2025年に9,254億円の市場となり、見守り関連は124億円になると推測しています。



[図表1]見守り関連

花原浩二
マークスライフ株式会社
代表取締役

木下勇人
相続・事業承継専門『税理士法人レディング』 代表

井上幹康
税理士・不動産鑑定士