付言で両親の切実な想いが明らかに

遺言書の最後に付言がありました。

「Aを厳しく育てたことに後悔はないが、もっと話し合うべきだった。自分が一代で創った会社を子どもに承継したいと思うばかりに、結果として誤った方向に進んでしまった。

孫の顔を見て和解する機会があったにもかかわらず、会社の再建を優先させてしまった。社長として従業員を路頭に迷わせることができず追い返してしまう結果になり、申し訳なかった。そのときの選択にも後悔はしていないが、事業承継を済ませ時間に余裕ができたのにもかかわらず、素直に会えないことが残念で悔やまれる。

少しでも自分たちの財産でAが安心して過ごせることを祈っています」

Aさんは悔やむあまり号泣しました。3億円もの財産を相続するも、どうしたものかと妻と顔を見合わせるばかりです。通帳には見たこともないような金額(1億円)が入金され、突然富裕層になってしまったAさんは戸惑うばかりでした。

時が経ち、少し落ち着いてきたころ、今後について専門家のアドバイスを受けることを決めました。Aさん夫婦は若いころに友人と金銭トラブルを経験したことがあったため、扱ったこともないような額のお金の使い道を自分たちで決めるのは避けることにしました。いままでの生活パターンを変えることなく、両親の想いを大切にし、次は自分の子ども(孫)たちにつなげていきたいとAさんは考えています。

Aさんのように、多額の相続を受け、戸惑う方は少なくありません。慣れない資産運用で失敗したり、詐欺の被害に遭ったりするケースもあります。大切なのは、信頼できる専門家に相談することです。

相続した資産をどのように活用すれば、Aさんの望む「いままでどおりの生活」と「子や孫への継承」を実現できるのか、専門家の視点からアドバイスを受けることで、将来の後悔を避けることができるでしょう。

〈参考〉

総務省統計局の家計調査:貯蓄現在高階級別世帯分布(二人以上の世帯)https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/pdf/2023_yoyaku.pdf

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表