相続のほうが良かったのに…長男が税負担を負った理由

「相続時精算課税制度」は適切に利用しなければ相続税対策とはならず、かえって損をしてしまう場合があります。

同制度を使った場合、相続が発生すると、相続時精算課税を選択して以降になされた生前贈与を含めて、相続税の計算がなされます(2024年1月1日以降の改正については後述)。

15年前のAさんは、暦年贈与のようなチマチマした方法では相続税対策として効果が薄いように感じ、相続時精算課税制度に飛びつきました。しかし、当時の同制度は、相続発生までの“課税の繰り延べ”でしかありません。

また、同制度を使って自宅を両親から子に贈与した場合、相続で取得した場合と比べて「登録免許税」や「不動産取得税」といった税金が高くなります。さらに、同制度を使っている場合には相続があった際に土地の評価を最大8割減できる「小規模宅地の特例」なども使うことができません。

このように、相続時精算課税制度は1度にまとまった金額を贈与できるというメリットがある一方で、デメリットも多いといえます。

相続時精算課税制度を利用すべきタイミングとは?

同制度が活用できる場面としては、賃料収入のある不動産を贈与するケースが考えられるでしょう。

このような場合に同制度を使って贈与すると、贈与日以降の家賃収入を受贈者が取得できることから、贈与者の財産増加を防止することができます。

もっとも、こうしたケースで不動産を贈与する場合にも、先述のように「登録免許税」や「不動産取得税」といった税金がかかるため、専門家に相談しながら慎重に判断しましょう。

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2024年から「相続時精算課税制度」の利便性が大幅に向上

相続時に1度選択すると、2度と暦年課税制度に戻れない、また毎年110万円の非課税枠がなく、選択後に贈与した財産は少額でもすべて申告しなければいけない……。

こうした理由から「使い勝手が悪い」とこれまであまり利用者がいなかった相続時精算課税制度ですが、2024年に大きな改正がありました。

2024年1月1日以降、同制度を選択した場合も暦年贈与の場合と同様に、毎年110万円までの贈与は非課税となり、申告義務もなくなったのです※。

※ ただし、新たに選択した年には申告が必要。

さらに、将来相続が発生した際も、非課税枠内で贈与した分は相続財産に足し戻さずに済むようになったことから、毎年110万円まではすべて非課税にすることが可能となりました。

年間110万円を超えた部分は蓄積され、2,500万円を超えると20%の贈与税がかかりますが、相続が発生した際はそれまでに支払った贈与税を控除することができます。

つまり、2024年1月以降に相続時精算課税制度を使えば、たとえ亡くなる直前であったとしても、年間110万円までは無税で贈与でき、相続財産にも足し戻されなくなったということです。

こうした背景から、今後は同制度の利用者が増えると見込まれます。とはいえ、基本的にはその名のとおり、相続の際にいままでもらった贈与を精算する制度です

また、今回のAさんのように制度を利用したことを失念してしまうというケースも実際に起きています。利用を検討する際は、専門家に相談のうえ十分に注意しましょう。

宮路 幸人
宮路幸人税理士事務所
税理士/CFP