大阪の公立高校が20年で約40校が消滅…“私学無償化”で加速か ひずみ生む独自の「3年ルール」とは

大阪府の公立高校で‟廃校”が続いている。この20年あまりで約40校が廃校になり、2024年度の府立高校(全日制)は154校まで減少した。根底には少子化もあるが、なぜ大阪で顕著なのか――。

大阪府南部に位置する阪南市の公立高、泉鳥取高校が31日で廃校となる。これにより同市から高校が消滅し、その機能は隣の泉南市にある府立りんくう翔南高等学校に引き継がれる。

大阪では特にこの10年、毎年のように公立校廃校が話題となり、いまや府内市区町村の半分ちかくで公立高校が「0か1」という状況だ。

大阪で「高校減少」進む原因とは

南北に長い形状の大阪にあって、公立高校は各市区町村にまんべんなく設置され、教育面はもちろん、まちづくりにも貢献するなど、公教育機関として重要な役割を担ってきた。2013年までは学区制が敷かれ、居住地に近い公立高を受験する制度もあった。

公私比率でも大阪は公立校優位の土地柄で、地域の中で健全な競争があり、それによって大阪全体の学力水準も維持されてきた。ところが、2026年度はさらに、大正白陵高校(大阪市)、福泉高校(堺市)の募集停止も決定し、公立校廃校の流れに歯止めがかからない。

こうした潮流の源流を辿れば、「大阪府立学校条例」に行き着く。同条例2条は以下の通り定めている。

<入学を志願する者の数が3年連続して定員に満たない高等学校で、その後も改善する見込みがないと認められるものは、再編整備の対象とする。>

この条例は、当時の橋下徹大阪府知事が推し進めた「教育改革」の一環として2012年に制定。その内容から“3年ルール”と呼ばれ、大阪の公立校の独自ルールとして定着している。

冒頭の泉鳥取高校は、2019年から2021年の3年間、定員割れとなり、廃校が決まった。定員割れした2年目の2020年はわずか1人足りなかった。同校は学力レベルこそ上位ではなかったが、「地域活動」を教科に取り入れるなど、ボランティア活動にも積極的に取り組み、阪南市唯一の高校として愛されてきた。

定員割れを「つぶす理由」にするのが非道理なワケ

歯止めの利かない少子化のなかで、学区制が十分に機能したかつてのような学校規模を維持するのは困難であり無駄もある。そこで、規模削減も含め、公教育に費やす予算を最適化しようとする方向性自体は間違っていない。

だが、3年ルールには公教育の役割をないがしろにしかねない問題もある。

「そもそも定員割れを問題にすることはナンセンスなんです。大阪府では『就学セーフティネット』として、募集定員が進学予定者数を上回るよう調整しています。つまり、定員割れは必然です。にもかかわらず、それを理由に学校をつぶすのは道理がありません」

こう力説するのは大阪府立高等学校教職員組合執行委員長の志摩毅氏だ。そもそも、定員を設定するのは教育委員会。たとえば2024年度は前年より中学卒業者数が331人減る一方で募集定員を400人増やしている。つまり、全体の募集定員に対し、志願者が不足するしくみになっている。

今年度の府内公立の全日制高校でみても、志願者数は現行入試制度にシフトした2016年度以降最少で、およそ半数の65校が定員割れしているが、必然の結果なのだ。

「公教育には定員のゆとりが必要です。ところが、政策的には競争を推進するような方向性で、あたかも定員割れが悪のように捉えられ、風評被害になっている感もあります。その元凶は3年ルールです。続けば廃校も検討されるということで、一度でも定員割れになるとネガティブな情報が広まってしまいます。せめて3年ルールは撤廃してほしいですし、地域に必要な学校をきちんと維持する。それこそが行政に求められる役割ではないでしょうか」(志摩氏)

定員割れになれば大阪の場合、原則、全員合格となる。だが、進路指導で学力に見合った高校が選定されるため、定員割れでも学力レベルに不相応な生徒が進学することはない。それを考慮しても、定員割れが魅力のない不人気校のようにみられてしまう現行制度は改める余地がありそうだ。

私学無償化の先にすける問題点

大阪は独自に私学の“無償化”も他の都道府県に先行して導入している。この内容にも問題があると志摩氏は指摘する。

「教育の無償化自体には賛成しています。ただ、大阪の私学の無償化は年間授業料が63万円を超えると学校側が負担する仕組みです。

また、経常費への助成が低く抑えられ『パーヘッド(生徒数に応じた支給)方式』になっています。大阪の一部の私学は公立校と併願する受験者の兼ね合いや収入を増やす目的から専願合格者数を定員を超えて水増ししています。

今後、授業料無償化により、費用負担が軽減される私学へ流れる受験生が増え、定員を超えて生徒を受け入れる状況が続くようなことになれば、結局は私学の負担が膨張し、教員確保や設備の維持等が難しくなり、環境面の悪化も懸念されます」

公立に目を向ければ、泉鳥取高校のように、いわゆる上位校ではない高校は今後も3年ルールの影響を受けかねない。一方で私立にフォーカスすると、上位校にはより優秀な受験生が流れる反面、中堅以下では生徒こそ集まれど、財政負担が増し、二極化と教育環境悪化の懸念がぬぐえない。

「現行ルール下では、もはやその恩恵は学力レベル上位校に集中し、それ以外は不利益を被るような仕組みになってしまっています。われわれとしては“3年ルール”が盛り込まれた大阪府立学校条例を抜本的に見直し、定員を理由とする高校つぶしをストップ。少子化をむしろチャンスを捉え、過度となっている受験競争の緩和、少人数学級の実現、学校規模の縮小など、すべての府立高校の教育条件を改善することを要望し続けます」(志摩氏)

最終的に教育の質向上につながることが大前提

これらはあくまで大阪の現状だが、他の都道府県にとっても他人事ではない。公立高校と私立高校の関係性はそれぞれ違いがあるものの、今後、全国の高校授業料無償化が導入されるプロセスで、公私比率のバランス変質は不可避といえ、そこにひずみも生じるだろう。昨今は学校に息苦しさを感じ、不登校で通信制高校を選択する学生も増えている。

少子化も相まって高等教育の環境が大きな転換点を迎えるなか、臨機応変な取り組みが必要なことは自明だ。

首長として大阪の行政のかじ取りを担う知事・吉村洋文氏は自身のXで、こうした状況について次のようにポスト。

「大阪には 100校弱の私立高校がある。半分が定員割れだ。公立だけじゃない。なぜ、定員割れが生じるか。

僕が高校生の時の子供の数は約200万人。今の高校生は約100万人。半分だ。高校の数は半分になっているか?

府立高校の数は、僕が高校生の時は約180校。今は150校。そりゃ定員割れになる。今の出生数は約70万人。今後、さらに少子化になる。今後も定員割れは避けて通れない」と喝破。

そのうえで「その中で子供達が、頑張れば行きたい学校にいける社会を目指す。

高校の授業料無償化。子供の選択を重視する。公私の切磋琢磨で教育の質を高める。人口減少社会の中で、高校教育はどうあるべきか。高校の再編整備をしながら、教育の質を高めたらいい」と改めて方向性を示した。