現役時代は真面目にコツコツ働いて資産を形成し、老後は貯金と年金で穏やかに暮らしたい……そう考える人も多いでしょう。しかし、たとえ自分たちが贅沢をしなくとも、「老後破産」の火種は意外なところにくすぶっているものです。溺愛するひとり娘に老後生活を脅かされる夫婦の事例をみていきましょう。石川亜希子FPが解説します。

愛するひとり娘からの“終わらない強請り”

Aさん(68歳)は3年前に退職し、妻のBさん(66歳)と東京郊外の持ち家に2人で暮らしています。

現役時代は仕事が忙しく、家のことは専業主婦のBさんに任せきりだったAさん。これからは妻と一緒に趣味や旅行を楽しみたいと考えていました。

夫婦は月に約27万円の年金を受給しています。退職時には退職金と合わせて4,000万円ほどの貯金もあり、Aさんは自分たちの老後資金としてはまずまずの金額で、悠々自適な生活が送れると考えていました。

退職してすぐ、数百万円かけて自宅の大規模なリフォームに踏み切り、夫婦で初めての海外旅行にも行きました。

AさんとBさんには、結婚10年目に授かった一人娘のCさん(31歳)がいます。Cさんは、夫と5歳、3歳の元気いっぱいの姉妹とともに、Aさんの家から車で30分ほどの距離に住んでいます。

夫婦にとって、子どもを持つことを諦めかけた時に授かったCさんは何にも代えがたい宝物で、大切に育ててきました。それはCさんが結婚し、子どもを持つ母となっても変わりません。

仕事と家事育児に奮闘する娘のため、夫婦は度々Cさんの家を訪れていました。家事を手伝ったり、孫たちの世話をしたり、できる限りのことをしていたといいます。

経済的にも、誕生日やクリスマスのプレゼントはもちろん、人気のテーマパークや近場の旅行に連れて行くことも。孫のためにピアノも購入しました。Cさんからは「次はランドセルをお願い」と言われています。

Aさんが現役の間はそれでまったく問題がなかったのですが、年金生活となった今、これらの援助がだんだん重荷になってきていました。

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年金生活のリアル

厚生労働省の「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の平均受給額(全世代、男性)は16万6,606円です。妻の国民年金6万8,000円を加えると23万4,606円ですから、Aさん夫婦の受給している年金額は平均以上であることがわかります。

ところが、総務省の「令和5年家計調査報告」から65歳以上の夫婦のみ、無職世帯における家計支出の平均を見てみると、実収入から非消費支出(税金、社会保険料など)を差し引いた可処分所得約21万3,000円に対し、消費支出は約25万1,000円となっていて、毎月約3万8,000円不足となっていることがわかります。

Aさん夫婦も、自分たちの生活費に娘世帯への援助も加わり、少しずつ貯金を取り崩す生活となっていました。

人並みに安泰な老後を送れると思っていたものの、今のペースで援助を続けていて、自分たちの老後は大丈夫だろうか。退職時に約4,000万円だった貯金は、わずか数年で1,000万円近く減っています。いつまで健康でいられるかもわかりません。Aさんはだんだん不安になってきましたが、Cさんに「これ以上はもう援助できない」とはなかなか言い出せませんでした。

そんな時、Cさんから衝撃の報告が。