“ノロノロ運転”で後続車を詰まらせる軽自動車が急停止。困った男性が運転席で見た“意外な光景”

 ハンドルを握ると性格が一変し、普段の自分とは異なる行動をとるドライバーが少なくありません。それらは、危険な運転を引き起こす原因にもなっています。

 「百害あって一利なし」と言いたいところですが、実際にはあおり運転がきっかけで幸せを手に入れた人々も存在します。その背後にはどのようなストーリーがあったのでしょうか。

◆早く帰りたい日に限って……

 内装業の見習いである独身の戸倉さん(25歳)。高校を卒業後、親戚が経営する内装工事会社に就職し、忙しい日々を送っています。

「その日の現場は隣町で、車で約40分の距離でした。前夜、中学時代の友人から『プチ同窓会がある』と連絡を受けていたので、親方に5時ぴったりに上がらせてもらい、車を走らせていました」

 そんな日に限って、帰り道の半分以上を占める片側1車線の県道に差し掛かると、戸倉さんの前にノロノロ運転の軽自動車が現れました。

「いくらなんでも、あの遅さは異常です。時速20キロ前後でした。ただ、最近あおり運転のニュースをよく目にしていたので、最初は我慢していましたが…」

◆気が付けば思い切りあおっていた

 前方の軽自動車はその後も速度を上げるどころか、ブレーキランプが頻繁に点灯するようになったといいます。

「いつの間にかパッシングをしたり、車間距離を詰める運転をしていました。それでも前の車のノロノロ運転は一向に変らず、ついにはクラクションを10秒くらい鳴らしてしまいました。そしたら、前の軽自動車が、突然急ブレーキを踏んだんです」

 戸倉さんは前方の軽自動車に追突寸前で停止できたそうですが、その時に「ハッと」我に帰り、自分が大胆にあおり運転をしていたことに気づいたそうです。

◆ノロノロ運転の訳が判明


 戸倉さんは、しばらく前方の軽自動車の様子を観察していたそうですが、運転手が出てくる気配がなかったので、自分から近寄っていったといいます。

「いきなり急ブレーキをかけられたので、もしかしてこっちがあおられているのかと思いましたが、状況が進展しなかったため、思い切って降りて行き運転席を覗くと、ハンドルにひれ伏して泣いている女性がいました」

 その女性は、戸倉さんが降りてきたことなどに気づく様子もなく、ただ肩を振るわせて泣いていたそうです。

「この県道は比較的交通量が少なかったものの、車の往来はあったので、私はその女性に『後から車がくるので、路肩に寄せます。申し訳ありませんが、助手席に移ってください』と、声をかけました。すると、その女性はビクッと驚いたようなしぐさをし、助手席へ移動してくれました」

 話を聞くとその女性は、超が付くほどのペーパードライバーだったそう。食事会に出かける母親に行きは運転してもらい、帰りにいざ一人になったら、突然運転することが怖くなってしまったと言います。

 そんな中、走行中に突然鳴り響いたクラクションに驚き、少しパニックになっていたようです。

◆あおり運転がきっかけでまさかの交際に発展

 女性の様子は時間が経つにつれて落ち着いてきたものの、運転できる状態ではなかったといいます。

「私が『運転できますか?』と尋ねると、彼女は何も言わずに首を横に振るだけでしたので、回復にはまだ時間がかかると感じました。自宅の住所を尋ねると、この県道の少し先にある住宅街だと答えたので、女性を助手席に乗せて自宅まで送りました」

 自宅に到着した女性はかなり冷静になり、戸倉さんに何度も謝罪しました。戸倉さんも自分のあおり運転について謝罪した後、自分の車まで歩いて戻りました。

「自分の車に戻った際、女性の車にスマホを忘れたことを思い出しました。急いで戻ると、女性は私のスマホを片手に持って玄関前に立っていました。その時の彼女の表情は非常に穏やかで、私はその瞬間、なぜか『よろしければLINEを交換しませんか』と口にしていました」

 パニックとイライラから始まった二人の出会いでしたが、後日女性から連絡が。それからも二人は連絡を取り合い、交際するようになったそうです。

TEXT/八木正規

【八木正規】

愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営