「家じまい」における1つの選択肢に、広い一戸建てからマンションへの住み替えがあります。実は、マンション暮らしには高齢者が被害に遭う危険性を下げる効果もあります。本記事では、終活コンサルタントの長谷川裕雅氏の著書『磯野家の家じまい』(リベラル社)より一部を抜粋・再編集して、多くの方に親しまれている「磯野家」をモデルケースに、一戸建て住宅に潜むさまざまなリスクについて解説します。

詐欺や強盗が怖いので雨戸を閉め切ると…一戸建ての思わぬリスク

波平とフネが住む一戸建て住宅では、防犯のために雨戸を閉め切る生活が習慣となりつつあります。

一戸建て住宅はマンションにくらべ、侵入経路が多く、侵入窃盗犯にとっては格好のターゲットです。

ニュースで報じられるような高齢者を狙った詐欺や侵入窃盗の被害が増える中、波平は「何かあってからでは遅い」と、留守中はもちろん在宅中でも雨戸を閉めることを徹底しています。

しかし、この対策が新たなリスクを生んでいることに気づきませんでした。

雨戸を閉め切るリスク

雨戸を閉め切る生活は、防犯上の安心感を得る一方で、家の中の生活環境を悪化させる要因にもなります。

特に夏場には、換気不足から室温が急上昇し、熱中症の危険が高まります。

近年、熱中症による高齢者の死亡例が増加しており、その多くが「閉め切った家」の中で発生しています。波平とフネも、雨戸を閉め切って過ごしている日が多く、フネが「最近家の中にいて頭がぼーっとする」と訴えたことがありました。後に医師から軽度の熱中症だったと指摘され、大きなショックを受けました。

また、雨戸を閉めることで室内が暗くなり、生活動線が見えにくくなります。その結果、小さな段差でつまずいたり、家具に足をぶつけたりと、転倒事故のリスクも高まります。

こうした状況が重なると、「安全のための対策」がかえって生活の質を低下させてしまいます。

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雨戸を閉めても被害に遭う危険性は変わらない

高齢者だけが住む一戸建て住宅は振り込め詐欺のターゲットになりやすいともいわれています。「高齢者だけが住む家」としてマークされた一戸建て住宅ならば、当然狙われます。

雨戸を閉め切っていても、電話や訪問で詐欺師は家の中に入り込んできます。波平とフネのところにも一度、銀行員を装った人物が訪問し、口座番号を聞き出そうとしたことがありました。

マンションの安全性

こうしたリスクを考えると、より一層、一戸建て住宅は「安心な暮らし」を提供するものとはいえません。

マンションのような集合住宅では、防犯設備が整っているケースが多く、オートロックや監視カメラの設置が標準化されています。また、マンションでは住民同士の目が自然と防犯効果を発揮し、空き巣や侵入窃盗のリスクが低くなる傾向があります。

波平とフネも、一度マンションの見学に出かけた際、こうした防犯体制に驚きを覚えました。フネは「こんなに安全なら、雨戸を閉め切る必要もないわね。」と感心し、波平も「自分たちの状況を考えると、マンションの方が安心かもしれないな。」と漏らしています。

家じまいを考えるきっかけに

磯野家にとって一戸建て住宅は、思い出が詰まった大切な場所です。しかし、老後の生活において本当に重要なのは「快適さ」や「安心感」です。

一戸建て住宅を維持することが、生活の質や安全を損なう原因となるのであれば、家じまいをしてマンションなどの防犯体制が整った住居に移ることは、十分に現実的な選択肢といえるでしょう。

長谷川裕雅

永田町法律税務事務所代表

終活コンサルタント