
北海道在住のライブ配信者・ぺぺさん(@zl_kz)の身体には、くまなく刺青が彫られている。ワンポイントのタトゥーと異なり、皮膚を広域に覆う毒々しさからは、ついつい凄絶な過去をつい想像しがちだ。だが、彼女が刺青を入れた理由は意外なものだった。本記事では、その人生観に迫ってみたい。
◆「入れたいなら入れろ」という父に対して、母は…
事業を営む両親のもとに生まれたぺぺさんは、現在も家業を手伝いながらライブ配信を続ける。家族仲は極めて良好だ。その関係性こそ、彼女が刺青を入れるに至った端緒ともいえる。
「私が高校1年生のとき、父が刺青を入れたんです。肩のあたりに、母の似顔絵でしたね。その際、父に連れられて彫師のところに行ったんですが、母をいかに愛しているかを彫師に語っていて。子どもながら、『あぁこういう愛情の示し方もいいな』と思いました。もともとあった刺青の怖い印象が、がらりと変わった瞬間だったかもしれません。それ以来、授業中に刺青の雑誌を読んでいました(笑)」
とにかく最速で刺青を入れたかったぺぺさんの行動は早かった。
「18歳になった日の夜中のうちに刺青を入れました。父はむしろ『入れたいなら入れろ』というスタンスでした。ただ母は、泣いていましたね。『大衆浴場に行けないじゃないの』と言っていました(笑)」
だが後年、期せずして母親も刺青を入れることになる。
「あるとき、母が脚に大火傷を負ってしまい……。その痕のせいで脚を出すことができなくなってしまい、気持ちが塞ぎがちになってしまったんです。そこで、火傷痕を隠すためにファーストタトゥーを彫りました。私には双子の姉がいるのですが、彼女もそのあと彫ったので、これで家族全員刺青を入れていることになります。みんな大衆浴場には行けませんね(笑)」
◆大事な話をしてくれなかった元恋人
愛情豊かな家庭で育ったぺぺさんは同様に心温かい家庭を望んだ。だがその夢は必ずしも叶わなかったという。
「配信を見てくれている人はよく知っていると思いますが、私は“釣り好き”を公言しています。幼いころに家族でよくやっていた思い出も背景にあるのですが、漁師だった元恋人の影響もあります。
その元恋人との間に子どもができ、当然のように結婚をするつもりでいました。けれども、彼の母親があまりいい顔をせず、結婚の話は頓挫してしまい……。あとで聞いた話では、彼には離婚歴があり、子どももいたようです。ふたりに会いづらくなるという理由で、彼の母親は私との結婚に反対だったようです。
結局、子どもは子宮外妊娠という形で出産に至らず。私は入院を余儀なくされましたが、入院した原因についても元恋人は母親に対して事実を告げていなかったらしいのです。大事な話を、何もしれくれない人でした」
◆一人旅をしている最中に「子どもがまだお腹のなかに…」
ほどなくしてぺぺさんは破局。フリーになって東京での一人旅をしている最中に、違和感を覚えた。
「旅先で急に体調を崩してしまって。彼の子どもがまだお腹のなかにいることがわかったんです。よりを戻す選択肢はなかったので、産むとしたらシングルマザーですよね。両親に相談し、産みたい旨を伝えました。両親は私の選択を尊重して、応援してくれました」
こうして現在の長女が生まれた。シングルマザーとなったぺぺさんには、ひとりの男性が猛アプローチをしてきた。
「昔からの友人で、私がシングルになったからいろいろ大変だろうということで、『面倒を見てやるから』と。入籍することになりました」
やがてこの男性との間には長男が生まれた。
ぺぺさんの両親は10代で出会い、20歳そこそこで彼女を産んで育てた。一方のぺぺさんは、自らの両親と同様に違いを愛し合う結婚生活に憧れつつも、遠回りを繰り返した。思い描いた通りの恋愛が成就したとは言い難い。
◆「記憶から消したくない存在」を刻み続ける
現在、ぺぺさんの身体にはさまざまな模様の刺青が入っている。これらを生涯にわたって消えることのない刺青の形で身体に留めることの意味は何か。
「世の中には刺青を嫌悪する人がいることもよくわかっています。ただ、刺青という消えにくいものを身体に刻む意味について考えてみると、『記憶から消したくない』という思いが強いのかなと。たとえば私の腕には子ども2人の名前が入っています。ふくらはぎには、もう亡くなってしまった愛犬が描かれています。
また、祖母が認知症になっていくのを間近で見てきました。優しくて可愛がってくれた祖母が、私のことを覚えていられないんです。そのときに、人間はどんなに『記憶しておこう』と思っても病気や事故などで頭や心のなかに残しておけない場合があることを知りました。きっと本人もそんな自分が歯痒いのだと思います。だからせめて身体に刻むことで、私にとって大切なものが周囲にもわかるようにしておきたいし、それを見れば記憶が蘇るのではないかと信じています」
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人は薄れゆく記憶になすすべがない。どんなに楽しく、愛情に恵まれた時間を過ごしたとしても、必ず終わりがくる。ぺぺさんはそうした恐怖に抵抗する勇気の印として、刺青を選んだ。自らにとって大切なものを吹き込み、自身を鼓舞し、それを周囲にも知ってもらうこと。刺青は、結束の固い家族で育ち、恋愛においては裏切りの味を知った彼女の、全身を使用した果敢な記録に他ならない。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki