もしもFIREから社会復帰することになったら?
ほかにも、社会復帰の難しさも視野に入れたほうがいいでしょう。仮に40代でFIREという選択をするとして、そこでピタッと仕事を辞めてしまったとします。10年後に「わたくしアーリーリタイアしまして10年間のブランクがあるのですが、雇ってもらえませんか?」と活動したところで、そういう方を積極的に採用しようという先は極めて少ないでしょう。
多くの人は20代から社会に出て働きはじめますが、20代はノリや勢い、体力と反射神経をレバレッジに乗り切れます。30代は信頼関係や人脈を構築し、スキルや実績値を積み重ねていく時期。そして40代は、その人脈や信頼関係、スキルや経験といった、これまで構築してきたすべてのリソースをようやくアウトプットできる時期。
ここでキャリア断絶させるのは、社会復帰の難しさに直面するリスクと、大きな機会損失のリスクをとることでもあるのです。
それでもFIREに近いことを達成したいのであれば、きちんと社会とつながるという意味も含め、少しでいいので収入源となるものを持って完全リタイアをしない、というのがいいと思います。
ただ、これも「FIRE完全マニュアル」のような本や動画だとその枠組みから出ておらず、多くのFIRE族がみんなやることなので、テンプレート化されて飽和してしまうリスクがあります。好きなことで、時間をコントロールできる仕事を考えるようにするといいのではないでしょうか。

パターン3は、パターン2のシミュレーションに年間100万円の収入が加わったケースです。これであれば、突発的な支出があっても元本を減らすことなく10年目を迎えることができています。結局のところ「不労所得を得て、楽して暮らしたい」という夢を、少しゆがんだ形で達成させようとしたのがFIREなのかな、と思います。
もちろん、不労所得自体は悪いことではありません。株や不動産などで金融資産を安定的に増やしていきつつ、働くことに関してはペースをコントロールし、自己実現に向かう余裕を持つ。これが、FIREがもたらす本質的な「余裕のある生活」ではないでしょうか。
田中 渓
投資家