
「孤独死」は、決して高齢者だけの問題ではありません。最新の調査では、現役世代の孤独死が全体の半数近くを占めるという事実も明らかになっています。特に50代男性に顕著なこの問題は、社会とのつながりの希薄さが背景にあるようです。本稿では、実例を通し、孤独死の深刻な現状について株式会社TBH不動産代表取締役の柏原健太郎氏が解説します。
高齢者だけの問題ではない「孤独死」
孤独死というと、高齢者を連想する人が多いのではないでしょうか。日本少額短期保険協会が発表した『第9回孤独死現状レポート(2024年12月)』※1では、2015年4月から2024年3月までに孤独死した人の概況がわかります。割合でみると、現役世代はなんと全体の47.5%を占めているのです。
孤独死は圧倒的に男性に多いです。日本少額短期保険協会孤独死対策委員会による第9回孤独死現状レポートによると、男女別孤独死人数の割合は、男性83.5%、女性16.5%となっています。
とりわけ50代の単身男性から急激に増えています。特に男性は女性に比べてコミュニティに属さない傾向があり、亡くなっても発見が遅れるケースが少なくありません。家族がいない、または家族との交流が希薄であることなどが理由で、社会から孤立してしまうのです。孤独死はそのような環境にある人に起こりやすい問題といえます。
想像に容易く、おひとり様が突然自宅で亡くなるケースは少なくありません。警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者は、令和6年上半期で3万7,227人。単純に2倍して1年分を計算すると7万4,454人となり、孤独死した人が1日あたり203人発見されている計算になります。
身寄りがなく、誰にも気にかけられずに最期を迎えるケースは、決して他人事ではありません。結婚していても、いずれはどちらかが先に旅立ち、一人暮らしになる可能性があります。孤独死は、あなたの住むマンションや隣人、あなた自身にも起こりうる社会問題です。
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50代男性、都内分譲マンションの一室で孤独死…
ある日、マンションの住人が「異様な臭いが日に日に強くなっている」と管理人に相談。管理会社を通じて警察が呼ばれました。鍵業者を手配し室内へ入ると、そこには強烈な異臭が漂い、薄暗い部屋の奥で姿をとどめていない遺体が発見されました。
季節は夏、死後約1ヵ月が経過。損傷が進んでいたため、死因の特定は困難でした。警察の検案書には「直接死因不詳(死後変化高度)」と記載され、発病や発傷の有無も不明。警察の捜査が終わったあとも、部屋には死の臭いが漂っています。結局、管理組合は特殊清掃の依頼を余儀なくされました。その際、管理組合が毎月徴収している管理費から鍵の開錠費用や清掃費用を立て替えることに。
この出来事から約3年後。不動産業を営む筆者は、家庭裁判所から選任された相続財産清算人の弁護士に同行し、管理人室を訪れました。
鍵を預かり、玄関へ向かうと、隙間なく養生テープが貼られ、封印された異様な玄関ドアが目の前に。軍手をはめ、二重になったテープを剥がし、鍵を差し込む。回すと静寂を破るように開錠音が響きました。扉を開けた瞬間、昼間にもかかわらず薄暗い室内の違和感と、強烈な異臭が鼻を突く。重く澱んだ空気が室内から溢れだし、一瞬逃げ出したくなる衝動に駆られましたが、一礼し、手を合わせ、意を決して中へ入りました。
亡くなっていたのは50代の男性。幼いころから両親とともに暮らし、両親が亡くなったあともマンションを相続し、そのまま住み続けていたとのこと。
室内は生活用品やゴミが散乱し、整理された形跡はありません。埃をかぶった衣類や食器、思い出の写真、土産物の小物、人形、30年前の本や雑誌など、すべてがそのまま残されていました。遺体があった部屋はかつて子ども部屋だったと思われます。二段ベッドが置かれ、床には大量のアダルトビデオやDVDが散乱。まるで十数年前から時間が止まったような光景でした。