約30年続いたデフレの時代が終わり、ここ数年インフレが続いている日本。これに比例して平均給与も上昇していますが、現実には「給料が上がった実感がない」「生活が苦しい」と感じている人も少なくないでしょう。今回、この“違和感”の正体について、株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが解説します。

日本の会社員の「真ん中」ってどこ?

“平均給与”は年々上昇しているが…

国税庁の「民間給与実態統計調査結果」によると、令和5(2023)年における会社員の平均給与は約460万円でした。約70万円の賞与を引いたひと月あたりの給与は32万円ほど。

日本の平均給与は年々増加しており、令和2年時と比較すると3年間で25万円/年増加していることがわかります。

令和2(2020)年……約435万円

令和3(2021)年……約446万円

令和4(2022)年……約458万円

令和5(2023)年……約460万円

出典:国税庁「民間給与実態統計調査結果 総括表」

しかし、日本の平均給与が増額している割に、自分たちの生活は豊かになっていないと感じる人も少なくないでしょう。

実は、平均年収は年収の高い高所得者層が平均値を吊り上げているという実態があります。

そこで、極端な高所得者や低所得者の影響を受けにくい中央値※をみてみましょう。

※ 「中央値」とは、データを順に並べた際に「真ん中にある値」のことをいう。たとえば7人の年収データ(200万円・300万円・400万円・500万円・550万円・1,000万円・2,000万円)がある場合、平均は707万円となるが、中央値は真ん中の500万円となる。

先述の調査によると、年収の中央値は約350万円となっています。賞与約50万円を引くと、ひと月あたりの給与は25万円ほど。こちらの値のほうが、多くの人にとって実感に近い数字なのではないでしょうか。

給与階級別の分布をみると、300万円超~400万円以下の人が826万人(構成比16.3%)ともっとも多く、次いで400万円超~500万円以下の人が782万人(同15.4%)となっています。

令和2年からの4年間のデータをみても、最も多い層は「300万円超~400万円以下」で変わりありません。中央値もほぼ横ばいです。

【300万円超~400万円以下の人数と構成比】

令和2(2020)年……860万人(17.1%)

令和3(2021)年……877万人(17.1%)

令和4(2022)年……840万人(16.5%)

令和5(2023)年……826万人(16.3%)

出典:国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査―調査結果報告―」

このように平均年収と年収の中央値には乖離が発生しており、その差は100万円以上にのぼります。ニュースなどで普段目にする年収と実際の生活水準との違和感の正体はここにあるようです。

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 “生活が苦しい”と感じる「もう1つ」の理由

この「平均年収と中央値の差」に加え、生活が豊かになっていると感じられない理由のひとつに、「インフレ(物価高)」があります。

過去30年ほどにわたって、日本の物価は「デフレ」によって抑えられてきました。しかし、新型コロナウイルスやロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに物流が滞り、近年は米国を中心にインフレの流れが続いています。

一般的には、デフレ脱却により経済(景気)はよくなるとされています。しかし、それは物価の上昇以上に所得が増えて初めて実感できること。生活が豊かになったと感じられないのは「物価高」の影響でしょう。

見た目は増えているが…「実質賃金」は下がっているという事実

「名目賃金」とは、給与所得者が実際に受け取る金額、つまり給与明細に記載されている額面金額を指します。ここには物価の変動は加味されません。

一方、「実質賃金」とは、給与所得者が受け取る給与(名目賃金)に物価変動の影響を加味した賃金のことをいいます。そのため、たとえ賃金の額面=名目賃金が同じでも、物価が上がれば購入できるモノやサービスが減ることから、実質賃金は減少します。

日本ではここ数年、名目賃金は上昇していますが、それ以上にインフレによってモノの値段が上昇し、実質賃金は低下している状況にあるのです。

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」でも、実質賃金の低下が確認できます。令和2(2020)年を100とした場合、令和5(2023)年は97.1となっています※。

※ 出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年11月分結果確報」。事業所規模5人以上の現金給与総額における数値。

“カレーライス物価指数”は1年で「25%」上昇

また、カレーライスを作るために必要な食材費や光熱費などを基に算出した「カレーライス物価指数※」も、令和6(2024)年12月時点は386円と2023年10月の308円より78円多く、約25%の大幅な上昇となっています。

※ 帝国データバンクが独自に試算した、「カレーライス1食あたり」のコストを示す指数​。総務省の「小売物価統計」をもとに、カレーライスの具材や水道光熱費の全国平均価格から算出している。

物価指数に連動して給与も上がっていれば負担には感じませんが、年間20%以上の昇給となると現実的には難しい面があるでしょう。生活の苦しさには、こうした背景があったのです。