
3月28日、大分県に住む40代女性が、総合通信局を名乗る男と警視庁サイバー課の警察官をかたる男から、言葉たくみに100万円をだまし取られる特殊詐欺が発生したと報道された。事件のきっかけとなったのは、女性の携帯電話にかかってきた非通知電話だったという。
深夜にかかってくることも少なくない非通知電話だが、女性が被害に遭ったような特殊詐欺以外の目的にも使用されていると言われる。一体、誰が、どのような目的でかけてくるのだろうか。
主なパターンと、それぞれのリスク、対処法などについて紹介するーー。(樋口正)
もっとも多いのは「データ情報販売会社」?
深夜の非通知電話でもっとも多いパターンについて、非通知電話事情に詳しい「総合探偵社ガルエージェンシー名古屋駅西」所長の矢橋克純氏は「探偵業界では広く知られたことですが、携帯電話や固定電話の使用情報を収集するデータ情報販売会社によるものが大半です」という。
彼らが深夜に電話をかけてくるのは、相手に電話を取られて料金が発生するのを防ぐためとされる。よって、多くの場合、いわゆる「ワン切り」となる。また、不特定多数に対して非通知電話をかけているので、深夜のとりわけ変な時間にかかってくることが少なくない。
非通知電話をかけて実際にその電話番号が使われていれば、電話料金を滞りなく支払えていることなどが確認できる。
そうした情報を販売している業者の存在について、前出の矢野氏は「当事務所にも情報の売り込みがくることがあります」と話す。
なお、悪質な業者の場合、振り込め詐欺グループなどに電話番号を販売することもあるそうだ。
ワン切りよりもたちが悪いのは、自動音声によってアンケート調査を行う業者からの非通知電話。このパターンでは、電話番号だけでなく、自動音声によって住所や居住年数、年齢など、細かな個人情報まで聞き出されてしまうという。
東京都消費生活総合センターの担当者は筆者の取材に、次のように答える。
「昨年よりも今年に入って、非通知電話の相談件数は増えています。特に多いのが、自動音声で電話会社をかたり『電話料金が未納です』などと伝えてくるパターンです。
しかし、電話会社が非通知で未納料金についてお知らせするようなことはないので、自動音声が流れてきた時点で電話を切ってしまって構いません。そもそも、非通知電話には出ないのが一番です」
では、こうした悪質な業者に違法性はないのか。担当者は「個人情報保護法に抵触している可能性が高い」という。
そもそも個人情報を利用するには、どのような目的で個人情報を利用するのか本人に知らせる必要がある。また、個人情報データを第三者に提供するときには、特別な場合を除いて本人の同意を得なければならない。
もし万が一、非通知電話に出てしまったり、何かの情報を相手に与えてしまったりした場合には、消費者ホットライン「#188」に電話し、相談してみてほしい。
特殊詐欺の可能性
別のパターンとして、非通知電話には冒頭で紹介した事件のように特殊詐欺の可能性もあるので要注意だ。2022年から2023年にかけて、フィリピンの収容所から日本国内に指示を出していた「ルフィ」と名乗る男による広域強盗事件が日本中を震撼(しんかん)させたが、この「ルフィ」なる人物も特殊詐欺グループのリーダー格であったことは記憶に新しい。
警察庁によると、2024年の特殊詐欺の認知件数は2万987件で、前年比1949件、10.2%増加した。また、被害額は721.5億円で、269.0億円、59.4%増加したという。いずれも年々増加傾向にあり、その被害は大都市圏に集中している。
では、特殊詐欺の手法にはどのような手口があるのだろうか。代表的なのはいわゆる「オレオレ詐欺」で、被害総額に占める割合は6割以上。実在の息子や孫であることをかたり、個人情報を聞き出したり、お金を特定の銀行口座に振り込むよう要求してきたりする。
「オレオレ詐欺」の非通知電話が深夜にかかってくるケースもあり、夜中の寝ぼけた状態の高齢者たちが食い物にされているとすれば許しがたいことだ。
他にも、預貯金詐欺やキャッシュカード詐欺盗、架空料金請求詐欺や還付金詐欺など、さまざまな特殊詐欺の手口がある。
こうした詐欺にひっかからないためには、当然だが非通知電話にそもそも出なければよい。
さらに言えば、多くの携帯電話には非通知電話をブロックできる機能が付いている。そうした機能をONにしておけば、深夜の非通知電話から詐欺にひっかかる恐れもないだろう。特に高齢の親がいる読者は、親の携帯電話をチェックしてブロック機能をONにしておくのが賢明ではないか。
警察庁はさらに、外国の電話番号からかかってくる国際電話についても国際電話詐欺の危険性を呼びかけており、注意が必要だ。
嫌がらせ行為やストーカー行為
最後に気を付けておきたいのが、嫌がらせ行為として深夜に非通知電話をかけてくるパターンだ。
上述した2つのパターンでは何度も繰り返し同じ相手から電話がかかってくるようなことは少ないが、嫌がらせが目的の場合、連日のように非通知電話がかかってくることも多く、ストーカー行為の可能性もあるので注意したい。
ストーカーが非通知電話をかけてくる場合、電話に出て相手に話しかけてもずっと無言のままのケースもある。ストーカーはどんな手を使ってでも対象と関わりたいと考えており、その手段として非通知で電話をかけてくるが、発信者が誰であるかは悟られないよう、相手が電話に出ても無言のままでいるのだ。
ストーカーはれっきとした犯罪行為であり、今年1月には新潟県で、女性に対して無言電話などを複数回かけた50代の男性が、ストーカー規制法違反の疑いで逮捕された。同法違反で有罪になれば、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される。
また、深夜に非通知電話が連日のようにかかってくる場合には、精神的に追い詰められてしまうこともあるだろう。2021年には兵庫県で、上司に対して約3か月にわたり非通知電話を1000回ほどかけて抑うつ状態にしたとして、50代の男性が傷害罪の容疑で逮捕されている(同罪の法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金)。
もし頻繁に非通知で無言電話がかかってくるようであれば、ストーカー相手からの電話の可能性も高いので、すぐにでも警察や司法に助けを求めたいところだ。政府広報オンラインでは、犯罪にあたるか不明なストーカーなどについては、警察相談専用電話「#9110」を利用するよう呼びかけている。