
表現することの空虚や迷いに対するすさまじい肯定。
集中力が続かず、映画館みたいにどこかに縛り付けられて本が読めたら最高なのにな、と思います。電子ペーパー、横書きアプリ、オーディブルなど試行錯誤しつつ、今は紙に戻ったところ。小説『転の声』はNY1泊3日という地獄の出張の機内で電子書籍を読み引きずり込まれました。バンドマンのフェイクドキュメンタリーというか、主人公の以内さんはそのまま尾崎さんだし、声が出づらいって以前も書いていたし。表現すること、それを消費されること、空虚さを感じることに、僕もそうだ、と強く共感しました。「声大丈夫かな」は、いくつかの大事な場面で繰り返されるファンの発言なのですが、最終的に観客から表現者に対する”大肯定”へとつながる。すさまじい自己肯定の言葉だと思います。


阪元裕吾 Yugo SakamotoSelector
映画監督。1996年生まれ。代表作に『ベイビーわるきゅーれ』『ネムルバカ』など。2024年、尾崎世界観と共同脚本で短編映画『変な声』を手がける。『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』10月公開予定。
illustration : Shapre text : Azumi Kubota
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