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多様化する「ホームレス状態」。背景にあるのは「生育格差」

日本には、安定した住まいを持たない、「ホームレス状態」にある人が大勢います。例えば、経済的困窮から家賃が払えず退去を迫られた家族。虐待やDVから逃れようと家を飛び出した若者。児童養護施設で育ち、保証人がおらず家を借りられない人。障害や年齢などにより、就労や一人暮らしが難しい人などです。

こうした人々は、路上や簡易宿泊所に寝泊まりしたり、ネットカフェや友人宅を転々としたりしながらなんとか生活をつないでいるのが現状です。

そんな中、2010年から「ホームレス状態を生み出さない日本へ」を理念に、相談者への就労や生活支援を行っているのが、認定NPO法人Homedoor(外部リンク)です。数多くの相談者と向き合う中で、メンタルケアやキャリア支援を含めた、中長期的に生活再建をサポートできる環境をつくりたいと考え、インクルーシブシェルター「アンドベース」を2023年に開設しました。

「アンドベース」と書かれた建物のイラスト。左側には「Homedoor」と書かれた建物、中央には「アンドベース」と書かれた4階建ての建物が断面図があり、様々な人が生活している様子が描かれている。右側には「おかえりキッチン」と書かれた建物がある。
困窮する多様な層を受け入れる、インクルーシブシェルター「アンドベース」のイラスト。場所は非公開。画像提供:認定NPO法人Homedoor

取材に応えてくれたのは、「アンドベース」の施設長の荻野直基(おぎの・なおき)さんと、相談部門長の永井悠大(ながい・ゆうだい)さん。ホームレス問題の実態や、インクルーシブシェルター「アンドベース」について伺いました。

取材に応じる荻野さんと永井さん
インクルーシブシェルター「アンドベース」で施設長を務める荻野さん(左)と相談部門長の永井さん

生育時に虐待や貧困を経験した人がホームレス状態に陥りやすい

――「ホームレス状態」の定義について教えてください。

永井さん(以下、敬称略):「ホームレス」という言葉からは、路上で生活をする人をイメージされる方が多いと思いますが、支援者や研究者は「自分名義の安定した住まいがない状態」などのように、より広く定義・イメージしています。

例えば、ネットカフェで生活している、知人宅に居候している、といった状態も含まれます。あとは、雇用が不安定な寮付きの職場に勤めていて、契約が解除されたら住まいと仕事を同時に失ってしまう方も該当します。

取材に応じる永井さん
永井さんはHomedoorに入社前は、ホームレス状態の方を中心とする生活困窮者の自立応援を行う「認定 NPO法人ビッグイシュー基金」に勤務していた

――路上生活をしていないホームレス状態の方は「見えないホームレス」と呼ばれることもあります。近年は若くして「見えないホームレス」状態になる方が増えているのでしょうか。

永井:ホームレス状態の方の若年化、寝泊まりする場所の多様化が進んでいると感じる一方で、路上で生活していないホームレス状態の方は、昔からいたのではないかとも思います。

実際、路上生活をしている中高年の方に話を聞くと、10代、20代の頃は「ドヤ」という日雇い労働者向けの簡易宿泊所を転々としていたという声が多いんです。課題の本質は昔からあまり変わっていなくて、近年ようやく可視化されるようになったのかなと感じています。

相談時の起居の場(N=983)を示す棒グラフ。上から順に多いのは、ネットカフェ・ホテル・サウナ (249人)、自分名義の家に住んでいる (212人、うち約37%が家賃滞納あり)、家族・パートナーと同居 or 他人名義の家 (156人)、路上・公園・河川敷など (122人)、知人宅 (71人)、会社の寮 (69人)、駅・商業施設 (43人) です。その他、行政施設 (15人)、車中 (13人)、刑事施設 (6人)、病院 (6人)、その他 (21人) が続きます。グラフの下には、「ネットカフェ等で生活する人からの相談が前年度より14%増え、全体の相談者のうち最多の約25%を占めるようになりました。」と記載されている。
Homedoorへの相談者が相談時に寝泊まりしていた場所を示したグラフ。最近では、ネットカフェやホテル等に滞在している人が多いという。出典:認定NPO法人Homedoor

永井:とはいえ、不安定な社会情勢の中で、若い方が貧困に陥るリスクが上がっているとも感じます。Homedoorが活動を始めた2010年頃は相談者の7割が中高年男性でしたが、年々若年化が進み、今は6割以上が40代以下の方です。

近年のSNSの発展、単発バイトの増加によって、居所や日銭を得る手段が多様化したことで、困窮している方の実態を把握したり、こちらから支援を届けたりするのが難しくなるという課題も生まれています。

Homedoorの相談者の年代と性別を示す2つの円グラフ。

左:年代の割合(N=926)

20代と30代が同率で最も多く、それぞれ205人(22.1%)。
40代が195人(21.1%)、50代が197人(21.3%)で、20代から50代で大半を占めます。
60代が76人(8.2%)、70代以上が34人(3.7%)、10代が14人(1.5%)です。

「18歳から最年長は92歳まで、幅広い相談者に対応しているのがHomedoorの特徴です。2024年度は20~50代の方からの相談が満遍なくありました。」と記載。

右:性別(N=1,051)

男性が最も多く750人(71.3%)。
女性が266人(25.3%)。
不明が30人(2.9%)、その他が5人(0.5%)です。

下部には「毎年、相談者の約4人に1人が女性となっています。」と記載。
認定NPO法人Homedoor 2024年度年次報告書より 相談者の年代と性別の割合。画像提供:認定NPO法人Homedoor

――ホームレス状態の方は、どんな事情を抱えていることが多いのでしょうか。

荻野さん(以下、敬称略):子どもの頃に虐待や親の死別、両親の離婚による生活苦といった「生育格差」にさらされている方が非常に多いですね。最終学歴が中学校で、正社員就労が難しい方も少なくありません。

「毎年1,000人以上が全国から相談に訪れるようになり 新たに見えてきた課題:「生育格差(せいくかくさ)」」というタイトルの画像。

「生育格差とは?」の項目では、「「生育格差」とは、生まれ育った環境により、教育環境や家庭環境に様々な格差が生じていることです。なかでもホームレス状態の若者のほとんどは、生まれ育った環境からして大変な状況にあり、大人になってもその状況から抜け出せず困窮状態に陥っている実情があります。」と記載。

具体的な例として、
「母親は薬物中毒で施設育ち。虐待によるPTSDで仕事が長続きしない。(19歳・男性)」
「ずっと虐待を我慢してきたけど、もう限界。でも18歳だと、高校に通いながら過ごせる施設がすぐに見つからない。(18歳・女性)」
長年ホームレス状態の方と関わるうち、多くの方の背景に「生育格差」が見えてきたという。画像提供:認定NPO法人Homedoor、READYFOR株式会社
10~20代のアンドセンター宿泊者の生育環境について(不明を除く、N=200)を示す円グラフ。最も多いのは「不仲・音信不通」で44%。次いで「虐待サバイバー」が25%、「連絡は取れるが頼れない」が18%、「児童養護施設出身」が9%、「死別」が3%、「里親家庭出身」が1%。
10代から20代の「アンドセンター(短期滞在向けの個室シェルター)」宿泊者の生育環境に関するグラフ。画像提供:認定NPO法人Homedoor

荻野:そうした方の多くは、日払いの仕事で働き、なんとかその日分のネットカフェ代と食費を稼いでいます。すると、災害や病気といった不測の事態で数日仕事が止まるだけで、あっという間にお金が底を尽いてしまうんです。

また、長い間ホームレス状態にある方は、仕事や居所を転々としています。そのため、人や社会とのつながりが薄い傾向にあり、利用できる制度を知らないことも多い。その上で「まだ頑張れる」と無理をしてしまうので、心身ともに疲弊した状況にまで追い込まれてしまうのです。

ホームレス状態の方の最終学歴と家族・親族の有無を示す2つの円グラフ。

左:最終学歴(合計人数320に占める割合)

中学校が最も多く49.1%。
次いで高校が31.9%。
大学8.8%、短期大学・専門学校6.6%。
その他2.5%、小学校0.9%、無回答0.3%。

右:家族・親族の有無

「いる」が最も多く61.6%。
「わからない」が19.4%。
「いない」が18.8%。
「無回答」が0.3%。
ホームレス状態の方の最終学歴、家族や親戚の有無。出典:東京都福祉保健局「令和4年ホームレスの実態に関する全国調査」

ホームレス状態から自力で生活を再建するのは非常に困難

――ホームレス状態の方は、具体的にどんな困難に直面するのでしょうか。

永井:人によってさまざまな困難がありますが、「一度完全に住まいや仕事を失った状態から、再び自分名義の住まいを契約するハードルが非常に高い」というのは、皆さんに共通していると思います。

保証人がいないと家を借りられないし、保証人代わりの保証会社の審査にもなかなか通らない。入居の初期費用は高額だし、家賃が比較的安価な公営住宅にもすぐに入れるわけではない。こうした背景があるために、ネットカフェや簡易宿泊所での生活から自力で抜け出すのはとても難しいです。

荻野:公的制度を利用したり、住まいを得たりするには、身分証、携帯電話の番号、前に住んでいた場所の住所(住民票)が必須であることも大きなハードルになります。

それに、安定した月給制の仕事が得られても、給与は翌月払いが基本ですよね。すると、それまでの生活費や交通費が捻出できず、結局日払いの仕事に戻ってしまう。

そうした状況を防ぐためにも、生活が安定するまで安心して過ごせる居場所としてシェルターが必要なんです。

取材に応じる荻野さん
荻野さんは、障害のある方が自らの望む生活を営むことができるように支援する障害福祉事業に17年間従事後、Homedoorに入社したという

――シェルターには、自治体が運営するものと民間が運営するものがありますよね。それぞれの特徴を教えてください。

永井:いわゆる公的シェルターは、入所のタイミングで生活保護制度(※)を利用できるので、法の枠組みに則った支援をスムーズに受けられるのがメリットです。

ただし、ほとんどが大人数での相部屋なので、入所を躊躇する方も少なくありません。また、財政にゆとりがない自治体には公的シェルター自体がないこともあります。まずは全国の全ての自治体がシェルター事業を運用できる体制を整える必要があると思います。

一方、「アンドベース」を含む民間シェルターの中には、個室の完備や設備の充実に力を入れているところもありますが、運用を支える法的な支えが少ないという課題があります。財政面でひっ迫しがちなので、法整備の必要性を感じます。

  • 「生活保護制度」とは、資産や能力等全てを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度
左:居室 
和室の畳の上に低いテーブルと座椅子、テレビと小型冷蔵庫が設置。奥の窓には濃い茶色の遮光カーテンがかかっている。手前には鏡付きのドレッサーと木製の椅子、白いヘルメットが置かれている。

右:浴室 白を基調とした清潔な浴室で、浴槽と洋式トイレ、洗面台が一体となったユニットバス。
Homedoorが運営するインクルーシブシェルター「アンドベース」にある、女性専用フロアの一室(左)とお風呂場。家具は全て寄付によるものだという

――民間シェルターの運営費は、どのように賄われているんですか。

永井:行政から委託を受けて運営したり、団体の自主事業や寄付で運営したりと、さまざまです。

行政から委託を受けていれば公的な資金を使えますが、年度ごとに予算が組まれるため、来年、再来年以降も事業が継続できるか分からず、中長期的なビジョンを持ちにくいというデメリットもあります。

「アンドベース」の場合は、毎月のランニングコスト300万円を寄付で継続的に集めるために、「3,000人サポーターキャンペーン」(外部リンク)を実施しています。これは、毎月1,000円を継続的に応援していただける寄付者を3,000人集めれば、新施設が持続可能な形で運営できるということでスタートしたものですが、まだ集まりきっていません。

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