中長期的な支援提供のため、インクルーシブシェルターを開設
――Homedoorとはどんな団体なのか、改めて教えてください。
永井:ホームレス状態の方を支援するため、2010年から大阪で活動してきました。設立初期は、シェアサイクル事業「HUBchari(ハブチャリ)」が活動の中心でした。
「HUBchari」とは、ホームレス状態の方を雇って、シェアサイクルを運営する事業です。現在、ドコモ・バイクシェアと協働し、大阪市内660拠点に拡がっています。これによって、雇用の創出と自転車問題の解決に取り組んできました。

永井:「HUBchari」の事業は一定の成果を上げましたが、仕事を提供するだけでは中長期的なビジョンでの生活再建にはつながりにくいということが徐々に分かってきたんです。そこで、まずは即日入居できる短期滞在向けの個室シェルターを2018年に開設しました。
その後、多様な層の方が中長期滞在できるインクルーシブシェルター「アンドベース」を2023年に設立、2024年から本格始動しました。
――相談者はどんなルートで「アンドベース」につながるのでしょうか。
永井:ネット経由が圧倒的に多いですね。「大阪 家がない」といったワードで検索してHomedoorを知り、連絡をくれる方がほとんどです。
荻野:相談に来られる方は、年齢や性別はもちろん、ホームレス状態に至った背景、病気や障害の有無、それぞれの特性など、本当にさまざまです。そのような背景から、アンドベースは「インクルーシブシェルター」として、困窮する多様な層を受け入れています。

荻野:足が悪い方でも階を移動できるようエレベーターのある物件を選んだり、車いすで入れるトイレを設置したりと、快適に過ごしてもらえるよう工夫しています。また、DVや虐待を理由に入居される方もいるので女性専用フロアを設置し、住所は非公開、セキュリティも強化しています。

――「アンドベース」への滞在には費用がかかりますか。
荻野:家賃を支払える方からは一定額をいただいています。滞在中は生活保護を利用する方もいれば、働いている方もいます。退所後の生活資金を確保するため、各々のペースで貯金もしてもらっています。
携帯電話、住民票、身分証がない方が家を借りるのは非常に難しいですが、「アンドベース」なら時間をかけてそれらを準備できます。
――入居した方は、どんなステップで生活再建に向かうのでしょうか。
荻野:最初の3カ月はいろんなことを頑張ろうとするのですが、その後疲れが出て、新たな課題にぶつかることも少なくありません。
半年ほどでようやく生活のペースを確立し、時間を掛けて次のステップに進まれています。長年の苦しみから解放され、本来望んでいた生き方につながるにはある程度の時間が必要なんだと思います。
永井:そもそも生活再建のゴールも人それぞれなんですよね。就労や経済的自立を目指す方もいれば、幼少期からの虐待や育児放棄によるトラウマがあって、どんな生き方を目指せばいいか分からない方もいる。
ですから、必ずしも経済的自立だけを目指しているわけではありません。スタッフとのコミュニケーション、利用者同士の交流、レクレーション活動などを通して、まずはやりたいことや自分らしい生き方を見つけてほしいなと思っています。

「安心して帰れる場所ができてうれしい」という利用者の声
――「アンドベース」ができてから、Homedoorの支援はどう変わりましたか。
荻野:短期滞在向けの個室シェルターでは、関係を築くことが難しく、退所後の支援が十分にできないという課題がありました。
しかし、「アンドベース」に入居した方とはじっくり関係を築けるので、つながりを保ちやすく、退所後の生活や仕事の課題をサポートしやすくなったんです。
また、これまで孤独に生きてきた方や、安心できる生活経験が少ない方が多いので、入居者同士のつながりが生まれることも大きな影響を与えていると思います。「安心して帰れて、おかえり、ただいま、おはようと言い合える存在がいることがうれしい」と言ってくれる方もいます。

――今後の展望を教えてください。
永井:シェルターという場所は、いろんなことが制限される、支援の枠の中で決められた「自立」に向かって走らされる、というイメージを持たれがちです。「アンドベース」では、そうした制約をできるだけなくしていきたいです。
ホームレス状態の方に対する偏見として「やる気がないからそうなった」「頑張ってこなかったからだろう」というものが少なからずありますよね。でも、実際に関わってみると、むしろ真逆だと感じています。

永井:誰にも頼れない苦しい状況の中で必死に生きてきたことで、「経済的に自立すべき」「社会の役に立つべき」という強い自責感情や強迫観念を抱き、他者を頼れなくなっている方が多い。
そんな方々の凝り固まった心を解きほぐしていくのも、私たちの大切な役割だと思っています。本来、「自立」の形は一人一人違うはずです。理想の自立像を押し付けるのではなく、本人の内側から湧き上がってきた「こうなりたい」を支援することで、利用者がその人らしく生きられるようになってくれたらうれしいですね。
