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四国八十八カ所お遍路でうどんよりおすすめの麺料理とは? 藤﨑聡子のémoi style (エモワ スタイル)

四国八十八カ所お遍路でうどんよりおすすめの麺料理とは? 藤﨑聡子のémoi style (エモワ スタイル)

香港と四国八十八カ所お遍路で知る小麦粉と水で作る麺の多様性

高松港。この景色は本当にいやされる。小豆島などへ移動するのもここから

香港国際空港が九龍エリアにあった1990年代前半、この地で初めて食べた麺料理が麻辣刀削(マーラーとうしょう)麺であった。簡単に説明すると麻=しびれ、辣=辛みを味わえるスープ麺である。

麺の種類は刀削麺。字の通り刀で削った麺。小麦粉と水で生地を作り、大きな板の上でかまぼこ状にする。それを肩にのせ、沸騰した湯がはられている大きな鍋の中へ専用の刀で投げ込むように削っていく。人の手で行うから太い、厚みがある、長い、短い、などさまざまな形状があるのが刀削麺の面白さ。今でこそ日本でも知られているが、当時は「世界にはこんなに面白い麺料理があるのか!」と驚いた。

そして調べていくと中国には地方、村などその地域ごとにさまざまな麺料理があることを知る。新しい名前の麺料理に出合う、そして食べるを香港へ行くたびに繰り返し、中国で食べることができる麺料理をすべて味わうことは不可能、と悟った。たった2種類の材料、小麦粉と水だけで作るものなのに無限大の可能性を秘めている麺。制覇するなんて気軽に思ってはいけないのだ。

日本で小麦粉と水で作る麺、と言ったらまず思い浮かぶのがうどん。これは本当に好みが分かれると思う。刀削麺とは違い、細さ、長さまで人の手で行うのが手延べうどんの特徴のひとつである。

お遍路で出会った麻辣刀削麺の名店「中国料理 北京」

それを改めて理解したのは2014年、四国八十八カ所霊場が開創1200年を迎えることを知り、何の気なしに始めたお遍路であった。通し打ち(一度の旅ですべてを回る)ができなかったので区切り打ち(何回かに分けて回る)を選択した。順打ち(1番札所から回る)でスタート、四国4県、終盤は香川。うどんの名店がひしめく県である。片っ端からうどんを食べる。どこに行ってもうどん店を見つけては食べるを繰り返し、店によってこんなにも違うのかと自分の舌に覚えさせていく。

丸亀を経て高松へ到着、商店街を散歩しながら偶然見つけたのが中国料理店。看板に麻辣刀削麺、と書かれている。この地でこのメニューを発見できるとは!とうれしくなった。うどんばかり食べていたのでなにか他のものを、と感じていた時だったし、久しぶりの麻辣刀削麺である。同じ小麦粉と水で作られる麺だ。迷わず入店した。

高松にある「中国料理 北京」の麻辣刀削麺を知らないのは人生損している

ずっと眺めていたくなる美しさ

麻辣刀削麺、この一杯が登場した。

自分が知っているものとはトッピングからして全く違う。一般的に知られている麻辣刀削麺はインゲンと香菜(パクチー)。そしてしょうゆベースで味つけされた豚ひき肉がのっているものが多い。 しかしこの麺にはその気配が全くない。水菜、チャーシュー、そしてゴマが特徴である。

スープの色合いは記憶のなかのものと似ている。ということでスープを一口。これは驚いた。「麻」のしびれ、は最初おだやか、香りが生かされている。「辣」の辛みも同様、はじめのアタックが柔らかい。でも後からじんわり辛さがやってくる。でもこの辛さ、インパクトではなく見え隠れするアクセント。

あ、そうか、麻辣だから辛さってあるよな、というレベル。この辛さならすべての味わいを支えてくれる。出しゃばってこない。とても良いポジションになっている。そこから麺に流れる。

麺のしなやかさを見ていただきたい。これが刀削麺の極み

これが刀削麺なのか!?と驚くほどのしなやかさ。透明感もある。太い、厚みがある、短い、長いなど荒削りの刀削麺をずっと見てきた中で、この麺の薄さには度肝を抜かれた。 荒削りもそれはそれで良い。でもこのスープにはそれはふさわしくない。このしなやかさしかありえないのだ。なによりもスープと麺のからみ方。これにも感服する。

一目見ただけでもわかる麺とスープの絶妙なバランス

食べることが惜しくなる。食べたら終わってしまうから。そのくらい私には突き刺さった。麺、スープ、程よい辛さ、食べ続けられる旨み、刺激を感じる香り、それぞれが主役クラス。そして合わさることでさらにお互いを引き立て合う。何かが突出しているのではない。

これがバランスの良さ、ということなのか。どうすればこの完成度の高さになるのだろう……。お遍路の途中であったが、3日間、このメニューを6回食べた。そのためだけに高松にとどまった。6回、まったく変わらない味わい。ブレないのだ。それにも感動した。

シェフに話を伺ったところ、自分にしかできない一品を極めたいということで、時間を見つけては中国・山西省へ渡りひたすら麺作りを研究されていた。山西省は刀削麺発祥の地方である。麻辣は成都で学ぶ。パンダで有名だがこの地は「しびれ」「辛さ」を生かした料理が知られているからだ。ひとつの料理としてバランスを考えしびれの存在、辛さの出し方、麺の作り方、削り方、それぞれを中国で代表する地域に赴き学び続けていた。

スープに優しいコクがあるのは、煮込んでいく素材の優しい味わいを出す清湯(チンタン)の旨み。「中国料理 北京」の麻辣刀削麺は清湯が全体のバランスをまとめ上げているのだ。あぁ、持って帰りたい。残りのお遍路、これを持ち歩いてずっと食べていたい。そのくらい恋に落ちた麻辣刀削麺であった。

香川はうどんが主流、そう考えたら刀削麺も材料は同じ。ではうどんでここまでのことができるか。それはうどんではなくなるような気がした。

以来、時間を作ってはこの麻辣刀削麺を食べるためだけに高松へ行く。お遍路をやったことで何が自分にとって良かったか、と質問されたら迷わずこの麻辣刀削麺に巡り合えたこと、と答えている。 そういう意味でも弘法大師には感謝しかない。その感謝を胸に抱えながら小豆島八十八カ所霊場も回り、高野山へ。仕上げに西安・青龍寺にまでお礼参りしてしまった。

Information
中国料理 北京 本館
香川県高松市片原町2-8
tel. 087-822 2141
営業時間:11:15-14:00、17:00-21:30
定休日:月曜日
http://pekin.co.jp

photo & text: Satoko Fujisaki

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配信元: marie claire

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