
秋も深まってきました。空気は冷たく冴え冴えとしていて、感覚も研ぎ澄まされそうです。
こんな季節は芸術に触れて、感性を磨きたいですね。
東洋医学では、体と感情、季節は密接につながっていると考えています。
だから、芸術に触れて感性を磨くことも立派な養生!
そこで今回はこの時期にぴったりな、“芸術の秋養生”をご紹介していきましょう。
秋は「悲」の感情、冬は「恐」の感情が強くなる

「心と体はつながっている」──これは東洋医学の基本的な考え方です。
少し具体的に言うと、「五臓(ごぞう)は5つの感情を生み出している」と表現することができます。
五臓とは人体を支える5つの生体機能のことで、肝(かん)、心(しん)、脾(ひ)、肺(はい)、腎(じん)があります。
そして肝からは「怒」、心からは「喜」、脾からは「思(思い悩む)」、肺からは「悲」、腎からは「恐(恐怖心)」の感情が生まれると考えられており、この5つの感情を「五志(ごし)」と呼んでいます。
五臓になんらかの異変が起こると、五志にも変化が現れます。例えば、肝をめぐる気(き=エネルギー)が滞ると怒りっぽくなる、心をめぐる気が過剰になると笑いが止まらなくなる⋯⋯など。
また、五臓は季節との関連が深いので、五志も季節との結びつきが強くなります。春は肝の働きがさかんになるので怒の感情が現れやすい、夏は心の働きがさかんになるので喜の感情が現れやすい、梅雨は脾の働きがさかんになるので思い悩みやすい⋯⋯というように。
そして同様に、秋は肺の働きがさかんになるので悲の感情が、冬は腎の働きがさかんになるので恐の感情が現れやすくなります。五臓と感情の結びつきは、とても深いものなのです。
悲しみを癒す芸術が疲れ、冷え、かぜを予防する養生に

さて、今は晩秋の節気である「霜降(そうこう)」の時期で、悲の感情が現れやすいとき。気がふさいだり、くよくよと落ち込んだり、悲しくて泣きそうになったりすることが多くなるかもしれません。
こうした悲しみの感情は多少であれば問題はありませんが、ひどい悲しみが続くと気を消耗してしまいます。気は体の活動力となるほか、体を温めたり、病原菌などの侵入から体を守ったりする働きがあるので、悲しみが強すぎて気が消耗すると疲れやすくなる、冷えやすくなる、かぜをひきやすくなるといった不調が見られる傾向が。いずれも今の時期に現れやすい不調ですね。
こうした不調を予防するためにおすすめしたいのが、芸術の力で悲しみをやわらげる養生法。
五臓の理論にもとづくと、悲の感情は喜の感情に抑制されると考えられます。つまり、悲しみをやわらげるには、喜びを感じることが効果的ということ。これは東洋医学を持ち出すまでもなく、多くの人が体験している感覚ですね。秋は、この喜の感情を刺激する芸術を楽しむことが養生になります。
まず挙げられるのが、高揚感や多幸感あふれる音楽の鑑賞。例えば、王道ですがモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』のような明るい曲調のクラシックや、ビートルズの『Here Comes the Sun』のような太陽を感じる曲を聴くと、悲しい気分を体の内側から温めて癒やしてくれるような感覚になるでしょう。
オペラ、歌舞伎、宝塚などの華やかな舞台芸術もおすすめです。美しい衣装や音楽が心を明るくするほか、感動的なストーリーの作品で涙を流せば、気のめぐりもよくなって悲観的な気持ちが発散されます。
絵画ならルノワールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』のような、光が描かれた明るい作品を鑑賞するといいでしょう。黄色が印象的なゴッホの『ひまわり』など、暖色系の色彩が美しい作品もおすすめ。光や暖色系の色から感じるぬくもりやまぶしさが、胸の奥で固まっている気の滞りをゆるめてくれます。
また、悲の感情は肺から生まれているので、肺が開くのを感じるような合唱や民謡、声量が大きい歌手のコンサートなどに行くのもいいでしょう。声を出すことは“肺からの発散”であり、肺から生まれる悲しみの放出につながります。その声を聴くだけでも、悲しみの発散を促す養生となるでしょう。

