10万人を超える医師・歯科医師で構成される全国保険医団体連合会(保団連)が10月29日、難病患者家族らと記者会見を開き、「OTC類似薬保険外しに関する影響アンケート」の中間報告を公表。
OTC類似薬とは、医療用医薬品のうち、市販されているOTC(一般用医薬品)と同じ有効成分や類似した効能を持つ薬のこと。
湿布や解熱鎮痛薬、咳(せき)止め、抗アレルギー薬などが該当し、これらは通常、医師の診察と処方箋を経て、保険で安価に手に入るが、薬局やドラッグストアでも全額自己負担で購入可能だ。
10月20日に発足した、自民党と日本維新の会による連立政権がOTC類似薬の保険適用見直しを含めた医療制度改革を掲げる中、アンケートには5687件の有効回答が寄せられ、約95%がOTC類似薬を保険対象外とすることに「反対」と回答。8割が「薬代が高くなる」と回答し、6割が症状悪化に懸念を示した。
国指定の難病、魚鱗癬(ぎょりんせん)を患う息子を持つ大藤朋子さんは「今回のアンケート結果から、OTC類似薬が保険適用外になり困るのは自分の息子だけではないと強く感じるようになった」とコメント。「政府は急いで結論を出すのではなく、当事者の声をしっかりと聞いてほしい」と述べた。
連立合意で加速する保険外し
自民党と日本維新の会が交わした連立政権合意書には、「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し」が明記されている。
両党は6月、当時与党であった公明党を含めた3党で「医療法に関する3党合意書」「骨太方針に関する3党合意書」を締結。連立合意書ではこれらに基づく医療制度改革の具体的な制度設計を2025年度中に実現し、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げを目指すとしている。
維新は医療費削減を通じて、現役世代の社会保険料を1人当たり年6万円引き下げると主張。
高市早苗首相も10月24日の所信表明演説で「人口減少・少子高齢化を乗り切るためには、社会保障制度における給付と負担の在り方について、国民的議論が必要」としたうえで次のように述べている。
「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しや、電子カルテを含む医療機関の電子化、データヘルス等を通じた効率的で質の高い医療の実現等について、迅速に検討を進める」(高市首相)
がん・難病患者から「生きさせて」の声
アンケートは今年9月22日から10月7日にかけて実施され、全国保険医団体連合会の機関紙や患者家族のつながりを通じて協力が呼びかけられた。回答者の年代は40代(20.4%)、50代(22.1%)、60代(19.1%)が多く、具体的な事例も3358件寄せられた。
OTC類似薬が保険から外れた場合の懸念として、「薬代が高くなる」と8割が回答。6割は症状悪化を懸念し、副作用や病気の見逃し、早期発見の遅れも4割程度が不安視した。半数超が、自己判断による服用や薬へのアクセスが滞ることに不安を抱えていた。
特に憂慮が表明されていたのは、子ども医療費助成制度や難病医療費助成制度が使えなくなる点だ。OTC類似薬が保険給付されなくなると、これらの制度から外れ、別途の費用負担が発生する。この問題について、約95%が「問題がある」と回答した。
自由記載欄には、がん患者、難病患者、重度寝たきりの在宅患者から切実な声が寄せられた。30代の乳がん患者は「乳がん治療のため、痛み止めの服用が必須です。治療代も高額になる中、保険適用でない薬で治療を続けると子を育てることができず、私も死にます。まだ30代、働きながら子育てと治療を続けています。生きさせてください」と訴えた。
50代の肺がん患者は「抗がん剤に加えて、咳止め、痰きりの薬が処方されています。これから先、死ぬまで必要な薬です。咳止めなどが保険外になるなんて恐怖でしかありません」と不安を吐露した。
難病患者「これ以上負担が増えると生活できない」
難病患者への影響も深刻だ。50代の潰瘍性大腸炎と統合失調症、骨粗鬆症を抱える患者は「実際に自分も統合失調症や潰瘍性大腸炎も含めて複数の病気を抱えており、薬代込みで年2~30万円かかっているので、これ以上負担が増えると生活できない」と訴えた。
30代のアトピー性脊髄炎患者は「もし保険適用外になり難病医療費から外されると毎月1万円で収まっていた医療費が、私が知る限りのOTC類似薬を市販で買った場合、7〜8万円程度まで跳ね上がり生活を圧迫します」と具体的な金額を示した。
ALS患者からは「私はALSで気管切開をし人工呼吸器をつけています。処方薬は薬局で粉砕し一包化されて胃瘻(いろう)から注入しています。一部の薬剤を自分で購入し粉砕するなんてできませんし家族負担も増えます。人工呼吸器をつけているので去痰剤は不可欠です」との声が寄せられた。
現役世代にも大打撃か「働くこと、生きることが難しくなる」
アンケートでは、慢性疾患やアレルギー等を抱える患者が、OTC類似薬の日常的な使用によって、就労、外出、家事・育児などの日常生活を維持している実態も明らかになった。
慢性疾患やアレルギーを抱える患者は、医師の指導・管理の下でOTC類似薬を含む治療を受けており、市販薬への切り替えは飲み合わせの事故や副作用チェックの遅れにつながる懸念がある。
30代のアトピーとアレルギー、生理痛を抱える患者は「薬が高額になり、生活ができなくなる。生活の為に薬を止めてしまうと働くこと、生きることが難しくなる」と訴えた。
30代のリウマチ患者は「毎月の薬代が倍以上かかって家計に負担がかかる。家族も症状は違うがOTC類似薬を処方されているため、もし保険外しをされたらもう病院行かない!となってしまい、意固地になって市販薬で済ませようとするかも知れません」と受診抑制の危険性を指摘した。
「医師の立場からは容認できない」
また、保団連の会長で、医師の竹田智雄氏は、日本人の約23%が捻挫や初期のぎっくり腰、重い生理痛、頭痛など、中程度の慢性疼痛(痛み)を抱えているとして以下のように述べた。
「痛み止めとしてよく使われるロキソニンの薬価は現在、1錠あたり10.4円で、3割負担の保険適用によって、1錠あたり3.5円になります。これを市販薬で代替した場合、12錠700円、1錠あたり58.3円かかると言われており、約17倍の差が生じます。
このような中で、患者さんにOTC類似薬の保険適用外について話をすると、皆憤りや反対を表明されました。
また、医師の立場から考えると、経済的負担が原因で受診抑制が起これば、症状の悪化につながる可能性もありますので、OTC類似薬の保険適用外しは断じて容認できない政策です」(竹田氏)
上野厚労相「丁寧に議論を深めていきたい」
なお、上野賢一郎厚労相は10月22日の会見で、上述のような、OTC類似薬の保険適用見直しによって起き得る患者の負担増について、次のように述べている。
「骨太の方針でも、『医療機関における必要な受診を確保し、こどもや慢性疾患を抱えている方、低所得の方の患者負担などに配慮』しつつ検討するとされているので、社会保障審議会医療保険部会において、そうした観点を十分に踏まえながら丁寧に議論を深めていきたい」(上野厚労相)

