
こんにちは、奈良在住の編集者・ふなつあさこです。今年も正倉院展の季節がやってきました。奈良国立博物館の周辺も秋めいてきて、鹿たちもいつの間にか夏毛から白い斑点のない冬毛に衣替えしています。
毎年恒例の展覧会ですが、世界的に見てもこれだけ長く続いている展覧会というのはとても珍しいことなのだとか。とくに今年は、万博イヤーということもあってか、国際色豊かな宝物(タカラモノ、ではなく“ほうもつ”です)が多く出陳されている印象です。
さらに今回は、およそ9000件を数える正倉院宝物のなかでも、歴史や美術の教科書などに取り上げられていて「見覚えがある!」と思う方も多そうな宝物がいくつも並んでいます。時を超えて大切に受け継がれてきた、日本はもとより世界の宝物ともいうべき正倉院宝物に出合いに、ぜひぜひ奈良へお出かけください!
1300年前の美と知に心が震える!

10月25日(土)にスタートし、11月10日(月)まで開催される「第77回 正倉院展」。私は東京に暮らしていたころにも必死で通い、10回以上は鑑賞しています。そこまでしても足を運ばずにはいられないのは、毎年新たな出合いや気づきがあるから。
南倉125「桑木阮咸(くわのきのげんかん)」の展示室では、以前の調査で録音された音色も流れていました。東大寺の大仏さまを造立した聖武天皇も、この音色を耳にしたのかも……と思うと、タイムトラベルに出かけたような不思議な気分に(あの歌を思い出します!)。

すべてが見どころではありますが、今回はとくに「見覚えがある!」と思う宝物が多い気がしました。たとえば「蘭奢待(らんじゃたい)」の雅号で知られる香木、中倉135「黄熟香(おうじゅくこう)」もそのひとつ。
実際に目にすると、思った以上の大きさ。天下一の名香ともいわれ、足利義政、織田信長、明治天皇が切り取ったことを示す紙箋が付いています。

正倉院宝物は大きく3種類に分けられるのですが、なかでもバラエティに富んでいるのが、光明皇后によって大仏さまに捧げられた聖武天皇遺愛の品々。その目録(≒リスト)『国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)』も残っています。
これによると聖武天皇ゆかりの鏡は20面あるそうですが、こちらの螺鈿飾りの鏡、北倉42「平螺鈿背円鏡 附 題箋(へいらでんはいのえんきょう つけたり だいせん)」もそのひとつ。
日本では手に入らない、シルクロードの各地で産出された素材を使って花や鳥のモチーフが表現されています。大きな花の中心の赤い部分だけがぷくっと立体的で、この鏡を作った遠い昔の人のセンスを感じられます。

古代中国の唐でさかんに作られた陶器「唐三彩(とうさんさい)」のように見える、南倉9「磁鉢(じはち)」。でも、なんと日本で作られた「奈良三彩」なのだそう!
正倉院宝物というと、シルクロードを経て伝わった舶載品というイメージがあり、実際そういう例もあるようですが、大陸からもたらされたデザインを真似たり、日本にはない素材を使って日本で製作されているケースの方が実は多いそうです。

近くにいた学芸員さんに「これ、本物ですか?」と思わず確認してしまったのが、南倉150「赤地錦几褥(あかじにしきのきじょく)」。仏さまへの供物を載せる机に敷いて使われた、机の上敷きだそうです。びっくりするほど保存状態がよく、色鮮やか。

「えっ? ほうき?」と思って近寄ってみたのが、写真左の南倉75「子日目利箒(ねのひのめとぎのほうき)」。ほうきはほうきでも、儀式用のほうきだそうで、握る部分位は色とりどりのガラス玉があしらわれています。
写真右は、このほうきを立てかける台という説もある、南倉76「粉地彩絵倚几(ふんじさいえのいき)」。
心ときめく“天平ブルー”に見惚れる

第77回 正倉院展のメインビジュアルにも使われているのが中倉70「瑠璃坏 附 受座(るりのつき つけたり うけざ)」。ライティングが素晴らしく、こんなにも透明感があってつややかなんだ! といつまでも離れたくない美しさでした。
ご都合がつけば、実際に目にしていただくことを心からおすすめします。何かで見たことがあるというのと、本物を目にするのとでは全く違う体験です!

北倉150「花氈(かせん)」も、地色のブルーが目をひく宝物。法要の場で用いられたと考えられている、花文様のフェルトの敷物です。魔法のカーペットに乗って、心が奈良時代に飛び立ってしまいそう。

ゆったりとした雲の文様が描かれた南倉148「浅縹布(あさはなだのぬの)」。幕として使われたと考えられています。

藍染の絹紐、南倉82「縹縷(はなだのる)」は、大仏さまの開眼会(かいげんえ。新たに造った仏などの像の完成の際に行う儀式)ゆかりの宝物。
聖武天皇をはじめとする参列者は、大仏さまに目を入れる巨大な筆、中倉35「天平宝物筆(てんぴょうほうもつふで))」に結ばれたこの紐に触れてその功徳にあずかったとされています。

北倉18「藍色瑠璃双六子(あいいろるりのすごろくし)」:上1枚、「浅緑瑠璃双六子(あさみどりるりのすごろくし)」:右下6枚、「緑瑠璃双六子(みどりるりのすごろくし)」:左下6枚は、いずれもガラス製の双六の駒。

双六子は、こちらの北倉37「木画紫檀双六局(もくがしたんのすごろくきょく)」とともに、聖武天皇ご愛用の品。私たちが知っているスゴロクとはルールが違うようで、その遊び方を推定する展示パネルもありました。

正倉院展は例年大変混みあいます。事前予約制の「日時指定券」を購入しておきましょう! 時間帯によってはすでに売り切れていますので、ご予定されている方は早めにチェックしてくださいね。
※本記事掲載の写真は、取材先の許諾を得て撮影のうえ掲載しています。「第77回 正倉院展」における展示室内での許可のない動画および静止画の撮影は、禁止されています。

