前代未聞の国内最大手「三菱UFJ銀行」で起きた巨額窃盗事件。今年10月、同行支店の貸金庫から顧客の金塊計約26キロなどの金品(計約3億9,000万円相当)を盗んだとして、窃盗の罪に問われた元行員・山崎由香理被告人(47)に対し、東京地裁(小野裕信裁判官)は実刑判決を言い渡した。
その約2ヶ月前の今年8月、被告人は法廷で自らの過ちと古巣への想いを口にしていた——。
◆被告人質問で明らかになった“闇の姿”

判決によると、被告人は2023年3月から翌24年10月までの間、練馬支店(東京都練馬区)と玉川支店(世田谷区)で、顧客の金塊29個(時価総額計約3億3,000万円相当)や、現金約6,100万円、旅行券50枚(計25万円分)を盗んだ。
勾留中の被告人は、職員らに連れられて黒色のジャケット姿で法廷に現れた。被告人席に座ると、傍聴人を一瞥することなく、終始やや下を向いて開廷を待っていた。表情は長い勾留生活からだろうか、やや疲弊しているようにも見えた。頭は白髪が目立ち、何度も深呼吸をしていたのが印象的だった。
この日の裁判では、被告人質問に先行して証人尋問が行われた。弁護側の証人として元夫と母親の2名が出廷。証人尋問などから被告人の深刻なギャンブル依存症に陥っていた“闇の姿”が見えてきた。
◆順調な銀行員人生からの転落…
被告人は短大を卒業後、就職氷河期まっただ中の1999年に入行。不遇の時代とはいえ、営業課長を務めるなど順調に出世していった。そんな被告人だが、転機は十数年前。当時同居していた元夫がFXで儲けていた姿を見て、次第に興味が湧いたという。はじめはFXのみだったが、競馬やスロットといったギャンブルを繰り返すようになっていった。
「FXは休日は閉場していましたが、当時の精神状態では、何かしていないととても不安な状況にあったので、休日でも開催していた競馬をやるようになりました」(被告人質問から。以下同)
その結果、2013年には1,200万円の借金を抱えてしまった。これを解消するために、被告人は裁判所に個人再生手続きの申立てもした。個人再生手続きは自己破産に準ずるものであるが、職業制限はないため、被告人は行員として勤務し続けられたという。
その後は、元夫が口座を管理するなどして、個人再生手続きから3年ほどで借金を完済。元夫の徹底的な管理の下、小遣い制にするなどした結果、600万円の貯蓄までできたという。
だが、そんな元夫の努力はむなしく、被告人は隠れてFXやギャンブルを再開してしまった。当初は3万円だった小遣いが、月15万円にまで上がっても、被告人の金銭感覚では足りなかったとのこと。
「一度はFXや競馬はやめましたが、少しでも小遣い稼ぎのためにとやってしまいました」
被告人には、FXや競馬によって損失が増える一方だった。そんなときに目をつけたのが、自身の職場にあった「貸金庫」だった。

