山田洋次監督の最新作『TOKYOタクシー』に出演。木村拓哉が触発された撮影現場の情熱

──山田監督とのタッグは、『武士の一分』以来、19年ぶりです。

山田監督が新作を撮る時、その中に僕が「いたらいいな」と思ってくれたなら、どんな役でもやります。『武士の一分』から時が経って、監督は94歳。年齢が変わっただけで何も変わらない。現場では杖を持っていらっしゃるんですが、セットに置かれた台拭きの色が気になったら、「なんでこんなものがここに置かれているんだ！」とスタスタスタ！ 素早く取りに行って、杖いらないじゃん、と（笑）。

──現場は緊張感に包まれているのでしょうか。

張り詰めた空気は一切ないけど、厳しいですよ。本（台本）読みから本気です。俳優が台詞を発したら、その人の前にキャラクターのホログラムが映し出されていなければならない。監督が「そうじゃないんだよ」「もう一回」と言って、一向に進まないんです。撮影初日には、山田組常連のスタッフが「カメラが回っている！」と興奮していました。初日は本番を撮れないことも多いらしくて。撮った映像を見返して気になる部分があったら、なんの抵抗もなく撮り直し。監督の作品で咲き続けている倍賞さんは、それに対して驚きも不平不満も全くない。

──倍賞さんは『男はつらいよ』シリーズをはじめ、60本以上もの山田監督作品に出演されています。そして木村さんと倍賞さんといえば、ジブリ映画『ハウルの動く城』での声の共演を思い出しますね。

倍賞さんと実際に共同作業をするのは今回が初なんですが、『ハウル』があるので初めてという感じはありませんでした。倍賞さんはものすごいキャリアを積まれているのに、監督から「もっと苦しいんだよ」「ちゃんと思い浮かべなよ」とか、しっかり怒られている。「山田さん」とは呼ばず、常に「監督」。そういう関係がうらやましくもありました。

──タクシーは東京の街を走っているようにしか見えませんが、実はセットの中にタクシーを入れ、周りを取り囲むLEDパネルに車窓の風景を映し出すバーチャルプロダクション撮影が行われています。

現場でプログラマーがあらゆる情報を連動させるのは大変です。監督が「いくよ、用意！」と撮ろうとしたら、「少々お待ちください」となることもある。すると「僕はね、テクノロジーを撮りに来てるんじゃないんだ。芝居を撮りに来てるんだよ！」。監督は常に貪欲で真面目なんです。本気度が下がっている瞬間がないので、スタッフも出演者も上げておかなければいけない。でも、監督ぐらい真面目にやり続けたらぶっ壊れるんじゃないかな？ 真面目で思い出すのは、『武士の一分』の時、口移しで投薬するシーンがあって。監督がそばに来て、「僕はね、キスシーンというのは撮ったことがないんだよ」と……。どうしたらいいのか、頭がこんがらがったんですけど（笑）。今回の作品ではマダムの波瀾万丈な過去が描かれるので、監督、大丈夫なのかなって。

──苦しい時代もたくましく生きた人生を讃える作品です。木村さんご自身は困難に直面した時、どう乗り越えてきましたか。

一人で頭でっかちでいたら、本当に立っていられないくらいの状況になると思うんです。でも、一緒に現場で作業してくださる方がいる。皆さんの本気を見ると応えたくなって、それが推進力になります。家族の存在も大きいですね。この仕事は大変そうに見えるかもしれないけど、腹を括ったら大変じゃないと思う。自分は家族ができた時、腹をくくれたのかもしれません。最終的になんのためにやっているのかと考えると、「観ました」と言ってもらえるとか、そういうコミュニケーションが大切で。誰かに届いたとわかった時に充実感があって、つらいことがあっても全部帳消しになる。キャッチしてくれる人がいるからボールを投げられるんです。

https://youtu.be/vtMGmg5dhaI?si=7zTwN-VuXr8PQw_s

毎日休みなく働くタクシー運転手・宇佐美浩二（木村拓哉） は、娘の入学金や車検代、家の更新料など次々にのしかかる現実に、頭を悩ませていた。ある日、85歳のマダム・高野すみれ（倍賞千恵子） を東京から神奈川・葉山の高齢者施設まで送る仕事を依頼される。最初はぎこちない二人だったが、寄り道を重ねるうちに心を通わせ、すみれは自身の過去を語り始める。たった一日の旅が、二人の人生に奇跡をもたらしていく。

『TOKYOタクシー』
出演：倍賞千恵子、木村拓哉、蒼井優、迫田孝也、優香、中島瑠菜、神野三鈴、イ・ジュニョン、 マキタスポーツ、北山雅康、木村優来、小林稔侍、笹野高史
監督：山田洋次
脚本：山田洋次 朝原雄三
原作：映画「パリタクシー」（監督 クリスチャン・カリオン）
配給：松竹
©2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会

・木村拓哉がマリ・クレールの表紙に登場！ 鈴木京香とのスペシャルインタビューも掲載