
改正を重ね複雑化した年金制度、専門家であってもすべてを網羅している人はごくわずかでしょう。そのため、自ら情報を取りにいかなければ「本来もらえるはずの年金」をもらい損ねる可能性があるため注意が必要です。母の死をきっかけに年金事務所を訪れた55歳女性の事例をもとに、請求しないともらえない「未支給年金」について、受給対象者や具体的な手続きのポイントをみていきましょう。五十嵐義典社労士/CFPが解説します。
最愛の母の死…悲しみに暮れる55歳女性を待っていた事実
現在55歳のAさんは、息子がまだ小さかった頃に離婚して以降、シングルマザーとして奮闘してきました。
その息子が社会人になり家を出たことで、家賃の節約と母のお世話のため実家で暮らすことに。そして先日、同居していた83歳の母Bさんが脳梗塞で急逝したのでした。
Aさんは悲しみに暮れながらも、母との思い出に浸る間もなく葬儀などの対応に奔走します。
そのなかで、Aさんは母親の年金受給を止めるため年金事務所を訪れました。すると、窓口で「未支給年金の請求ができる」という趣旨の案内を受けたのです。
「えっ……母の年金を私がもらえるんですか?」
実はBさんは、自身の老齢基礎年金(年額80万円)と老齢厚生年金(年額10万円)に加えて、10年前の夫・Cさん(Aさんの父)の他界による遺族厚生年金(年額150万円)、計240万円を受け取っていました。その一部について、Aさんが受け取れるというのです。
母親の年金を止めるために年金事務所を訪れたAさんでしたが、まさかの事実に思わず笑みがこぼれます。
年金受給者が亡くなって発生する「未支給年金」とは
年金は月単位で計算され、亡くなった月の分まで支給対象となります。そして、年金は原則、偶数月(2月、4月、6月、8月、10月、12月)の15日に、その前々月分と前月分の2ヵ月分が振り込まれる「後払い制」です。
そのため、年金受給者が亡くなると、少なくとも死亡月の分は受け取ることができません。これにより「未支給分の年金」が発生するという仕組みです。
そしてこの「未支給分」については、亡くなった受給者の遺族が請求すれば受け取ることができます。
「遺族」の範囲
未支給年金を請求できる遺族とは、年金受給者が亡くなった当時、受給者と生計を同じくする(1)配偶者、(2)子、(3)父母、(4)孫、(5)祖父母、(6)兄弟姉妹、(7)(1)~(6)以外の三親等内の親族です。
そして、請求できる遺族には優先順位があり、その優先順位は(1)から(7)の順で優先されます。
Bさんにとっての配偶者であるCさんはすでに他界しているため、子であるAさんが配偶者の次に優先順位のある遺族です。そして、AさんとBさんは住民票上も同じ住所で同居していたため、生計が同じということになります。そのため、Aさんには未支給年金の請求権があります。
