親子リレーローンで後悔しないための「4つの確認ポイント」
親子リレーローンは、2人の収入を合算して借入できるため、高齢の親でも家を取得できるメリットがあります。しかし実際は、2人で債務返済の義務を負うことが求められます。契約が主債務者と連帯債務者に区分されることから、Aさん親子のように役割を誤解しやすい側面があります。
こうした親子間の“想定のズレ”は、決して珍しいことではありません。仕組みや責任の分担を正しく理解しないまま契約を進めると、思わぬ家計の負担や親子間のトラブルにつながることがあります。
では、トラブルを避けるためにはどのような点に注意すればよいのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの立場から、特に重要と考える4つの視点を紹介します。
1.返済の主軸と時期を明確に:役割の共有
まずは主債務者と連帯債務者、双方が返済の義務を負うことを確認してください。契約上だけではなく、お互いのキャリアや収入状況、ライフイベントなどと照らし合わせたうえで、返済の仕方を具体的に話し合っておきましょう。返済スケジュールを曖昧にしたままでは、家計にも人間関係にも負担が残ります。
2.名義と持分割合を実態に合わせる:登記の落とし穴
ローンの返済負担割合と登記上の持分が異なると、贈与とみなされるおそれがあります。また、持ち方によっては相続時の「小規模宅地等の特例」の対象外になる場合もあり、税務・相続の両面で専門家に相談しておくと安心です。
3.団体信用生命保険(団信)の範囲を確認:誰が、いくら“守られるか”
親子リレーローンの場合、団信に加入できるのは原則1人です。子が団信に加入するのが一般的ですが、その場合、親が亡くなると、親の債務は子どもに引き継がれます。思わぬ負担を避けるためにも、「誰が保障され、誰が残債を負うのか」を事前に確認しましょう。
4.「親亡き後」のライフプラン:住まいは引き継ぐのか
住宅ローンは「完済まで居住」が前提です。ところが、親が亡くなったあと、子が転勤・結婚・転居などで家を離れると、ライフプランと住まいの整合性が取れなくなるケースも。また、相続時にも要注意です。住宅ローンを返済し、住み続けるためには、親の持分を相続しない選択肢はありません。万が一のとき、家をどうしたいのかを確認し、リレーの後の返済計画や取得計画が、本当に親子双方のライフプランに沿っているかを見極めることが大切です。
FPから助言…家族の未来を守る「対話」と「確認」を
「夫が亡くなってから、あの子のためだけに必死で働いてきたのに…。『投資が忙しいから無理』ですって。もう、堪忍袋の緒が切れたんです」
涙ながらに語るAさんに対し、FPは深く頷き、「お気持ち、痛いほどわかります。ですがAさん、感情的になったままでは、残念ながら状況は悪化する一方です。いまはお辛いでしょうが、憎しみと家計の問題は、一度切り離して考えなくてはなりません」感情を受け止めました。
FPの助言は、冷静かつ現実的なものでした「いま、お2人がすべきことは、まず『まず現実を数字で共有すること』です」。
憎しみのあまり息子の顔もみたくなかったAさんですが、自らの破綻を防ぐため、「責める」よりも「共有する」ことを選びました。家計の現状と将来の見通しを一緒に紙に書き出したのです。
数字が目にみえると、息子の表情にも変化が。毎月の“全負担”は難しくても、ボーナス時の繰上返済や、固定費の見直し分をローンに回すなど、少しずつ現実的な落としどころを模索しはじめました。
一度憎しみを抱くほどに食い違ったからといって、親子関係を終わらせるのが難しいのも現実です。「契約の読み合わせ」「家計の見える化」「役割の言語化」という3つの冷静な行動が、最悪の事態を避けるためには不可欠でしょう。こうした小さな行動が、すれ違いを少しずつなくし、対話の積み重ねへと導きます。
親子リレーローンは、うまく使えば世代を超えて住まいを守る仕組みになります。しかし、仕組みそのものよりも大切なのは、「家族それぞれの人生設計とどう折り合うか」を考えること。住宅ローンは単なる“お金の契約”ではなく、“住まいを固定し、生き方に影響を与える約束”でもあります。
また、近年は法改正によって、晩年でも賃貸に住みやすい環境が整いつつあり、場合によっては賃貸のほうが「家族はいるが頼れない」という「老後の孤立」を防げる可能性もあります。
親子といえども生活習慣や価値観はまったく異なり、同じ屋根の下に暮らすことが安心につながるとは限りません。暮らしの安定を図るために、必ずしも多額のローンを組んでまで持ち家を購入する必要性は、以前より低くなっています。
家を買うことは、未来の暮らし方の選択肢を狭めることでもあります。「安心のために買ったはずの家」が、後で重荷にならないように。契約の前にしっかりと話し合い、お互いの思いと計画を確かめ合うことがなにより大切です。
家族の絆を守るのは、制度ではなく「対話の積み重ね」なのです。
内田 英子
FPオフィスツクル代表
