
介護職のやりがいを語るとき、「感謝の言葉」といった言葉がよく並びます。
しかし、介護講師の吉沢さんは、受講生に「介護職の本質はそこではない」「やりがいだけではやっていけない」と伝えます。
では、吉沢さんが考える介護職の本質とは何なのでしょうか。話を聞きました。

元経営者が見た、介護業界のリアル

──吉沢さんは介護業界で働く前は何をされていましたか?
吉沢さん:叔父と設立した建設会社の代表取締役兼会計職をしていました。それ以前はずっと子育てです。2歳ずつ年の離れた3人きょうだいなので、長いこと小学校のお世話になっていました。PTAの会長などもしていたので、地域のため、学校のため、いろんなことをしていましたね。
──そこからなぜ介護業界に入ったのでしょうか?
すみません。特別な理由はないんです。受講生からもよく聞かれますが、いつも「なんとなく」としか答えられなくて……。
叔父のがんや叔母の認知症が、介護に興味を持つきっかけだったかもしれません。もしかしたらテレビで見たドキュメンタリーかも。ただ、昔から興味を持ったら突き進んでしまう性格なので、“なんとなく興味を持った”という理由だけで、近所の特養に入職したんです。
──未経験で介護業界に入り、どのような印象を持ちましたか?
入職した施設は、要介護度の高い利用者さんが多かったので、入職してすぐに命を預かる特別な仕事であることを実感しました。「職員が正しく動かなければ、この人たちは死んでしまう」。そこが私の介護職のスタートです。
──では、元経営者として見たとき、介護現場の課題に気づくことはありましたか?
10年以上業界にいるのに適切な言葉遣いができない人もいて、「自分ならこんな人は採用しないのに」と感じました。その一方で、初任者研修を修了してから5年でホーム長に就任した人も見てきたので、「介護に経験年数は関係ない」と思いましたね。
また、古い知識がなかなか更新されないことも気になりました。介護技術は日々進歩していますが、何十年も前のやり方のままという現場もあります。だからこそ最新の知識や技術を学べば、経験に関係なく質の高いケアができますし、そうした新しい力が業界を変えていくのだと思います。
ありがとうだけでは続かない介護の仕事

──介護職の方から「感謝の言葉にやりがいを感じる」とよく聞きます。吉沢さんは介護職のやりがいについてどうお考えですか?
「ありがとう」のやりがいだけでは、続けられないのが介護だと思います。
厳しい話ですが、介護職は利用者さんから暴言や暴力を受けることもある仕事です。すべての利用者と職員がお互いに感謝し合えるなら、介護職の人材不足や虐待といった問題は起きません。
ですので、感謝の言葉だけを期待して介護業界に入る受講生を見ると、いつか難しい利用者さんに当たったときに潰れてしまうのではないかと心配になります。
──では、介護の仕事を続けていくにはどんな心構えが大切だと思いますか?
命を預かる自覚を持つことが大切です。
介護は、最期が近い方も相手にする仕事です。仕事を続けていれば、利用者さんが心肺停止している場面に遭遇することもあります。そのとき一番近くにいる介護職が正しい対応をできるかどうか。利用者さんの命と生活を守れるかどうか。その責任を持つことが重要だと思います。
──ちなみに吉沢さんは、どんなときに喜びを感じますか?
利用者さんが私の名前を覚えてくださったときですね。久しぶりに行った現場で「あら吉沢さん、元気だった? 最近来なくて心配してたのよ」なんて声をかけられると、私のことを気にかけてくださったんだなと、うれしく思います。

