29日午後4時30分ごろ、大阪市中央区で、バスと自転車の事故が発生。自転車で車道の歩道寄りを走行していた中学3年生の男子生徒(15)が、病院に搬送後、死亡が確認された。
ぬぐえない自転車での車道走行の恐怖感
男子生徒は道路交通法(道交法)に則り、自転車で車道左端を走行していたとみられ、ネット上では「日本のルールおかしい」「自転車を歩道でなく車道を走らせるようになって起きてしまった事故」「そもそも自転車が車道を走るのは無理がある」と法律の不備を指摘する声も多数挙がった。
自転車移動が多いという30代会社員のAさんも次のように証言する。
「自転車で移動するときは基本、車道の左端を走行しています。ただ、正直、バスやトラックが横を通過するときは毎回ヒヤリとします。自転車レーンがあっても、車道が狭いときは恐怖を感じます」
このコメントからもわかるように、ルールとはいえ、自転車で車道の左端を走行するのは、常に恐怖が伴う。だからこそ、ネット上でも現状の道交法に不満を示す声があふれたのだろう。
もっとも、自転車の車道走行の義務付けは2008年6月1日の道交法改正から。
すでに17年以上が経過しており、いまさら感もぬぐえないが、2026年4月から改正道路交通法が施行され、自転車の取り締まりに青切符の導入が決定。違反行為に反則切符が切られることになり、「自転車の歩道走行禁止」がにわかにクローズアップされた。
改正法施行後は、自転車の歩道走行はNGとなり、交通反則通告制度(青切符)導入により反則金6000円が科される。こうしたことから、「自転車が歩道から追い出された」との論調も拡大した。
自転車の歩道走行が許されるケース
実際には例外的ながら、以下のケースで自転車の歩道通行は許されている。
- 「普通自転車歩道通行可」の標識がある場合
- 13歳未満の児童、70歳以上の高齢者、身体の不自由な人が運転する場合
- 車道が通行困難な場所や、安全確保のためやむを得ないと認められる場合(道路工事、連続した駐車車両、著しく自動車の通行量が多い場合など)
もちろん自転車から降りて手押しする場合も歩道の通行は可能だ。
ルールに則り車道左端を走行してみたものの、通行量・駐車車両が多く、安全走行に危険を感じた。その場合は迷わず歩道へ移ればいい。
ただし、そうなると今度は、歩行者が身の危険を感じることになるので、歩道の状況を十分に確認し、安全運転することが最優先だ。
クルマ側にも‟配慮基準”が
自転車にとって不遇にも思える法改正だが、来年4月の改正にはクルマ側にも新たな基準が設けられている。自転車と車の間の安全な距離についてだ。
具体的には、自動車が自転車の右側を追い越す際に1.5メートル以上の物理的な間隔を確保することが法的に義務付けられる。
また、安全な間隔が保てない場合は、自転車との間隔に応じた安全な速度で走行する義務が課せられる。
自転車走行の「物理的な安全確保」不十分な日本
車歩道における利用者の安全を最優先に、適宜改正が行われている道交法。きっちり守られれば、安全性も大きく担保されるが、それでもルールにすぎず、有効性には限界がある。本質的には自転車専用レーンの設置拡充による、物理的な区分けが最も有効といえる。
国土交通省によれば、現状の日本の自転車車線(自転車通行空間)は約7570km。自転車先進国の欧州主要国と比べると、その半分にも満たない心もとなさだ。
さらに自転車通行空間のうち、車道が混在する矢羽根型の路面標示等による整備が多くを占め、自転車道や自転車専用通行帯の整備は途上の状況にある。
残念ながら、日本では物理的には車道における自転車の安全は十分に確保されているとはいえないのが実情だ。
取り締まりの‟弾力”で足りない要素を補完
こうした実情も踏まえ、警察庁も取り締まりには弾力を持たせている。
「単に歩道を通行しているといった違反については、これまでと同様に、通常『指導警告』が行われます。青切符の導入後も、基本的に取締りの対象となることはありません」
「指導警告」とは警察が口頭で指導や注意喚起を行うこと。つまり、自転車の歩道通行を「違反」と認めながら、スタンスとしては基本的に取り締まらず、「見逃す」ということだ。
その真意は次の通り。
「自転車の運転者による反則行為のうち、交通事故に直結する危険な運転行為をした場合や、警察官の警告に従わずに違反行為を継続した場合といった、悪質・危険な行為が自転車の交通違反の取締り対象となります」
特段、危険がない状況での歩道走行は、「指導警告」で済ませる。ただし、自転車運転者にそれを逸脱するような悪質な行為が認められた場合は、容赦なく反則切符を切るということだ。
今回の大阪の死亡事故では、バス運転手の不注意もあったようだが、いずれにしても、車歩道における物理的な安全確保が不十分な現状は極めて深刻な課題だ。そうである以上、当面は道路を利用する全ての人々が道交法を念頭にルールに注意を払うことが、事故を少しでも減らし、安全を確保するうえでの欠かせない要素といえそうだ。

