いつまでも輝く女性に ranune
その歳で貯金もないの?…女友だちからの痛烈な一言に撃沈。「26歳、貯金ゼロ、ローン持ち」だった氷河期世代の私が〈億り人〉になったワケ

その歳で貯金もないの?…女友だちからの痛烈な一言に撃沈。「26歳、貯金ゼロ、ローン持ち」だった氷河期世代の私が〈億り人〉になったワケ

故・経済評論家の山崎元氏と共著した『ほったらかし投資術』がベストセラーとなり、インデックス投資を広めたことで知られる個人投資家・水瀬ケンイチ氏。ごく普通のサラリーマンだった彼が25年かけて「億り人」となったきっかけは、女友だちからかけられたある一言でした。水瀬氏の書籍『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』(Gakken)より、その実体験を紹介します。

“ダメ男”の烙印(1999年・26歳)

「え、その歳で貯金もないの?」
時は1999年、女友だちと居酒屋で飲んでいた私は、いきなりダメ男の烙印を押された。

当時26歳の私は、就職氷河期世代。数百件の資料請求と数十件の面談を経て、ようやく滑り込んだIT系企業で働く入社4年目の営業職だった。とにかく就職できたことがうれしく、がむしゃらに働いていたと言っていい。初赴任の北陸勤務を経て本社へ異動し、大きな仕事を扱い始めていた。仕事が楽しく、上司の無茶なオーダーにも勢いと残業で応えながら、なんとか認められ、昇進したいと願っていた。

仕事と遊びと飲み会のことしか頭になかった。茶髪の女友だちは病院で働く理学療法士で、合コンの幹事もよく引き受けてくれる頼れる存在だった。私も勤務先のIT企業の野郎どもを連れて、すでに2度ほど合コンをセッティングしていた(なお、戦果なし)。今夜の飲み会も次回の作戦会議のようなものだった。

彼女は病院での仕事について、高齢の患者さんから厳しい言葉をかけられたり、時には思いがけない行動をとられたりすることもあると話していた。想像もできない世界の話で、私はただ「うんうん」と聞くだけだった。

「たくさんの老人を見ているとね、人間、最期に必要なのは優しい家族か、それがなければお金だよ」

「そんなもんかね?」

「そうだよ。家族との関係が希薄な患者さんは、十分なサポートを受けられないこともある。経済的な余裕があれば、より手厚いケアを受けられる施設に入ることもできる」

「老人ホームか、想像つかないな」
「老人ホームに入るのにいくらくらいかかるか知ってる?」

「知らない。100万円くらい?」

「入居に1,000万円くらいかかるところもあるし、それとは別に毎月十数万円も必要だよ」

「うそだろ。そんなお金ないよ」

「ピンキリだけど、水瀬、どのくらい貯金あるの?」

「ない」

「は?」

それで、冒頭のダメ男の烙印である。無理もない。私はがむしゃらに働く一方で、給料のほとんどをスノーボード、キャンプ、バス・フィッシング、そして飲み会に費やしていた。さらに車のローンも残っている。初めて買った車をたった1カ月で自損事故&廃車にしてしまい(このとき私は一度死んだようなものだ)、26歳にして車2台分のカーローンを抱えていた。北陸から東京へ引っ越してからは、飲食費や家賃、駐車場代が高く、ますます貯金とは無縁だった。


でも、周りのみんなも自分と同じようなものだと思っていた。会社の同期や友人たちと、お金の話をするのは飲み会の割り勘のときくらいで、貯金について話したことはなかった。もしかして、みんな意外と貯金しているのだろうか? 

自宅に戻り、黎明期のネットでおそるおそる「26歳 平均貯蓄額」と検索すると、「20代単身世帯の平均貯蓄額は約150万円~200万円程度」という無情な文章が表示された(2000年当時)。私は貯金ゼロ、しかも車2台分のカーローンも抱えている。背筋が一瞬寒くなるのを感じた。


──ここから、私水瀬ケンイチの25年にわたる資産形成の挑戦が幕を開けるのである。

目からウロコの家計診断

手はじめに、図書館でマネープランの本をてきとうに数冊読んだ。家計のやりくりや節約の話がたくさん書かれていた。本を書いているのはファイナンシャル・プランナーや経済評論家などさまざまな人たちだったが、どの本もだいたい同じような内容や構成になっていた。家計の見直し → 無駄の削減 → 貯蓄・投資 → ライフイベントへの備えといった流れだ。

まず家計の見直しのため、20代の標準的な住居費、水道光熱費、食費、服飾費、保険料、交通・通信費、娯楽費などの数字を見て、わが身をふり返る。

私は転勤族で全国を転々とさせられていたので、幸か不幸か、住居は社宅扱いの借上げマンションに格安で住むことができた。ただし、物件は会社が指定するため、自分で選ぶことはできなかった。水道光熱費、服飾費、交通・通信費は標準的である一方、娯楽費が大きすぎることがわかった。趣味のスノーボードやバス・フィッシングには道具だけでなく、車移動にかかる高速代やガソリン代、リフト代それなりにお金がかかるが、「お金が足りなくならなければいいや」とまったく気にせず毎週のように行っていた。また、週3回くらいのペースで公私にわたり飲み会に参加しており、これも湯水のようにお金を使っていた。そしてなにより、中古車2台分のカーローンが家計を圧迫していた。

そのとき、多くのマネープラン本に共通して書かれていた家計見直しの代表例が、生命保険や傷害保険の見直しと、携帯電話の料金プランの見直しだった。保険には自動車保険以外ほとんど加入していなかったが、給与明細を見ると、よくわからない項目でお金が引き落とされていた。「相互扶助費」という名前だったが、内容はよくわからなかった。それでも毎月、天引きされていた。会社の総務部に聞くと、「みんなでお金を出し合い万一に備える助け合いのシステムだ」という。どんなことを助けてくれるのか調べてみると、結婚時や出産時、けがや入院した時などに申請すると、しょっぱい金額が支払われるというものだった。まあ、保障内容の悪い保険のようなものだったのだ。

これを解約しようと総務部に話すと、「これは助け合いだから解約するとかそういうものじゃない」と突っぱねられる。多少、マネープラン本で知識を身につけていた私は、「相互扶助なら必要な人が自分で保険に入ればいい。社員に希望も確認せずに強制的に加入させるこの制度はおかしい。解約する!」「いままでこれを解約した人なんて聞いたことがない。助け合いの心がないのか。あきらめろ」と、総務の担当者と大げんかになった。

結果、ねちねち言われながらも、解約することはできた。しかし、解約返戻金として戻ってきたのは、これまで支払ってきた金額の半分程度だった。10数万円を失い、お金がなかった当時の私は「社員相手に、なんてひどい商売なんだ!」と憤っていた。冷静に考えると、どの保険にも加入年数によって解約返戻金が変わるという注意書きがあるものだ。「よくわからない保険を、よくわからないまま契約してはいけない」という鉄則が10数万円の勉強代で私の頭に強烈に刻み込まれた。これは失敗であったが、その後の人生で大いに役立つ体験となった。

水瀬 ケンイチ
個人投資家

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