2人で見つけた優良企業候補
宿題の続きに戻った2人は、有望企業についても1つだけ見つけることができた。
「ねぇ、2人とも書いてる、家を買うことに関してなんだけどさ。先週見に行った、オーバーロードハウスって、案外、有望なんじゃない?」
姫奈がポツリと言った。大金を払って家を買う予定だったので、現地に行く前に、この会社のことは詳しく調べていた。まだ小さな会社だったが、最近、東京証券取引所に上場したことが広告の隅に書かれていた。もしかすると、こういう会社の株が上がるのかもしれない。そう感じたのだ。
「えっ? あんな小さな住宅会社が? うーん? ちょっとネットで調べてみるよ」
信二は疑いつつも検索をかける。公式サイトには、投資家向け情報が詳しく書かれていた。どうやらここ数年、業績は順調に拡大している。ファイナンスのサイトで検索すると株価の情報が手に入った。
「おーっ、去年の11月に上場したばかりだってさ。ただ、最初の1か月は人気が出て1700円まで上がったけど、それ以降はずっと下がりっぱなし。で、今は800円だって。あんまり、注目されている感じもないし、なんかダメダメそうだね」
「へぇ〜。けど買おうと思ったら、あの会社の株、買えるんだ」
姫奈も興味津々である。
「他の人たちはなんて書いてある?」
ネット掲示板で検索すると、ボロカスである。株主たちの怒りや嘲笑で溢れ返っていた。
・ここの経営者は株主対策をまったくしない。この暴落を止める気はないのか。
・チャート5は下落基調。この様子だと、300円くらいまで下がるんじゃないかな。
・昨日損切りしました。こんなダメ会社買うんじゃなかった。いい勉強になりました。ハイ、20万円の大損!!
・この株は昨年末で終わりでしょ。まだ持ってる人、もっと株の勉強をしたほうがいいよ。
「なんか、買う気なくなるね……。銀さんに笑われそう」
否定的な信二に対して、姫奈は少し違う視点を持っている。
「けど、モノは考えようよ。年末に1700円もしたものが、今なら、800円で買えるんでしょ。だったら、半額以下の大バーゲン価格じゃん。ネットなんて嘘ばっかの言いたい放題なんだから、気にしてもしょうがないよ。みんな株が下がってイラついてるだけなんじゃない?」
「うーん。とりあえず、他に有望株なんて思いつかないし、この会社のことだけは、いろいろ調べているから、少しは詳しくなってるし。とにかく、明日はこの会社をネタに投資のコツを教えてもらおう」
「自己紹介」を宿題にした理由
翌日の夕刻、2人は再び、骨董品・古本・居酒屋「三福」の扉を開いた。
「いらっしゃい。宿題はやってきたかな?」
エビ銀は楽しみに待っていたようだ。
「はい。これがそうです」
信二が自己紹介を記入したコピー用紙を渡すと、エビ銀は真剣にそれを眺める。
「ふーん。お2人とも、なかなか、良いご趣味をお持ちですね」
いきなり、きつい冗談だ。ダイエットやカラオケ、ジョギングなんて、趣味と言うのも恥ずかしいレベルである。
「はぁーっ、もっとすごい特技とかがあれば、カッコよかったんですけど」
ため息をつきながら信二が恐縮すると、エビ銀はにっこりとして説明を始めた。
「いやいや、そういう普通の趣味だから株式投資に使えるんだ。みんなやってる、みんなハマってる、そういう趣味こそ市場がデカい。そういう市場でうまくニーズをつかんだ企業の中から、素晴らしい成長株が飛び出してくる」
2人は顔を見合わせた。エビ銀が2人に自己紹介ファイルを提出させたのは、人となりを知りたかったからではなく、投資のネタ探しだったらしい。
「えっ? こんな普通の趣味が良いんですか?」
不思議がる2人に、さも当然そうにエビ銀が言う。
「そうだよ。例えば、このダイエットなんて、とびきり良い趣味さ。大化け株の宝庫だ。みんな悩んでいるからね。ジャンルでいえば、サプリメントや健康食品が代表格かな。広げると、フィットネス関連株やスポーツ関連株も含まれる」
「ええーっ。じゃあ、何の変哲もない、僕たちのつまらない趣味こそが、実はお金持ちになるネタってことですか?」
「そうだよ。人と違う特別な才能がないと株では儲からないと思う人が多いけど、それは単なる先入観さ。普通の人こそ株式投資に向いている」
驚いた。そして嬉しくなった。それが本当なら、今までやってきたことは、すべて無駄にならない。どれも人に自慢できるような趣味じゃないけれど、みんながやってる、つまり市場の大きな分野ばかりだ。そんな普通の趣味でも、いや、そんな普通の趣味だからこそ、投資に活かせる。そんな発想は、今まで思いつきもしなかったし、誰からも教えられなかった。
「ええーっ、新鮮!」姫奈がはしゃぎだした。
「わかりました。早速、ダイエット関連株をネットで調べてみます!」
信二の声に、エビ銀がちょっと首を傾げる。
「うーん。いや、ネットで検索する、みたいなアプローチだけではうまくないんだ。もっと素直に、例えば、最近買い始めた商品とか、最近近くにできたジムだとか、あるいは、仕事の悩みを解決してくれる新しいソフトだとか製品だとか、そういう、身近な体験の中から、今後伸びそうな会社を見つけ出すという視点が大事なんだ」
