
「骨董品・古本・居酒屋『三福』」で、昭和の大投資家「エビ銀」と出会った20代の夫婦・信二と姫奈。エビ銀に株投資のいろはを教わる2人は、次の投資候補を探していきます。本稿では、奥山月仁氏の著書『株小説エビ銀 路地裏の大投資家が教えてくれたこと』より、「身近なお宝株」発掘術を紹介します。
身近な成長株のヒント
ツピッ、ツピッ、ツピッ、ツピッ、ツピッ。
ゴールデンウィークが明け、信二と姫奈は次の投資候補を探すことにした。
「銀さんは、ダイエットは狙い目だって言ってたけれど、私の場合、痩せるための筋トレの本を1冊買って、ただそれを実践しているだけだから、全然、企業とか株とかには関係ないのよね……」
「今までは、とにかく頭金を貯めるために、お金のかかることなんて何もしなかったもんな」信二はうなずきながらも、いつも気になっていることを口にした。
「けどさ、筋トレが終わった後、いつも、なんか飲んでるじゃん。アレ作ってる会社はどうよ? この前、『こいつは結構な出費だけど、筋肉増強のためなら仕方がない』とかなんとか言ってたじゃん」
姫奈もはっと気が付く。「プロテイン? そういえば、そうね。あれ結構高いのよ。けど、あれ飲んだら確実に筋肉がつくの。筋肉は裏切らない!」姫奈は力こぶを作って見せると、早速、プロテインの大袋を取りに行く。
「確かに……。これ毎日飲んでるし、この会社、儲かってるのかも……」パッケージの裏側を見た。
「モリタン製菓が作ってるんだ」
「えっ、チョコストライクのモリタン製菓?」
「そう、子供の頃よく食べたハイキッスのモリタン製菓」
物心ついた頃から慣れ親しんできたお菓子会社だけに、社名を聞いただけで、その味とともに様々な記憶がよみがえる。
「うーん、けど、そんな老舗会社が上がるかな?」信二はせっかくのアイデアをすぐに打ち消してしまいがちだ。
「そうね。大手じゃなくて、これから伸びそうな小さな会社が狙い目って、銀さんも言っていた」姫奈も自信がなくなってきた。
「けど、明日、銀さんたちと相談するのに、何もネタがなかったら失礼でしょ。だから、とにかくモリタン製菓のことをちゃんと調べてみようよ」
信二は、モリタン製菓の公式サイトにアクセスし、決算説明資料や製品情報を真剣に読むことにした。その隣で、姫奈は日課の痩せ筋トレを始めている。
株を買うための調査として購入した商品
翌日、三福はずいぶんと賑やかだった。
「ぎゃーっ、その香炉だけはやめて!! いくらの代物だと思ってるの!!」
サラ柴の悲鳴が聞こえてくる。
「こらーっ、お前たち、運動会はやめろ。おとなしくしないと、もう連れてこないからな!!」
どうやら、マハ・カラの子供たちが来ているようだ。
「こんにちは」信二たちが入口を開けると、幼稚園児ほどの小さな男の子が2人、姫奈に飛びついてきた。
「わー、かわいい。双子さんですか?」
「やぁ、姫ちゃん。そうなんだ。そっちが岩治で、こっちは金太」
「岩治と金太? 古風な名前なんですね」信二が反応する。
「うん。妻は日本人だから、日本らしい名前にしたいって」今度は姫奈が反応する。
「ところで、マハ・カラさんって、おいくつなんですか? まだこんなに小さなお子さんがいるなんて」
「えっ、ボク? 今年36歳」
「ええーっ? そんなに若いんですか」信二も姫奈も驚いた。確かに36歳といわれるとそんな風にも見えるが、2人は勝手に50歳前後と予想していたのだ。
「老け顔ってよく言われるのよ。あんたたちもボクのこと、もっとジジイと思ってたんでしょ! ガハハハハ」
信二は頭を掻きながらも、否定はしない。
「あっ、そうだ。これ、君たちにあげるよ」
ここに来る途中、スーパーで買ったハイキッスの新商品をカバンの中から取り出した。株を買うための調査として、スポーツショップやドラッグストアではプロテインや健康食品を、スーパーではお菓子や飲料品を調べていたのである。そのついでに、モリタン製菓のお菓子も買っていたのだった。子供たちは喜んで食べ始めた。
「ありがとう。2人とも大好きなんだ」信二たちがいつもの席に着くと、マハ・カラは子供たちを連れて出て行ってしまった。
「うちの子がいると邪魔でしょ! それに今日は井の頭公園で象を見る約束なんだ」
井の頭公園には小さな動物園があって、そこに子供たちを連れて行きたいらしい。ぼーん、ぼーん、ぼーん。古時計が3時を知らせた。
「ふーっ。やっと落ち着いたわ」
いつものように静まり返った店内で、サラ柴は汗を拭く。
「さて、今日は新しい銘柄を探してくる約束だったよね。何か良いのは見つかったかな?」
エビ銀の質問に姫奈が答える。
「はい。今回もそんなには自信がないんですが、この会社はどうかなって」
姫奈は、信二がエクセルで作ったシートを取り出して見せた。そこにはモリタン製菓と書かれており、PERやPBR、最近の業績推移などがまとめられている。
