◆ついに店主の堪忍袋が切れる
怒る男性に対し、店員は冷静に返した。「『ネギ増し20円の食券、見ませんでした?』と言うんです。私も最初は気づきませんでしたが、あとで見たらたしかに券売機にボタンがありました。以前は無料対応していた時期もあったようですが……。男は『ネギを抜く人もいるし、そんなに高いものでもないだろ。なんでケチるんだ』とクレームを続けていました」
男性は最後まで納得せず、追加料金を払う様子もなかった。藤島さんによれば、その間に食券を手にした客が列を作り始め、店内の空気は険悪になっていたという。
やり取りが長引いた末、ついに店主の怒りが爆発した。
「『払えないなら帰ってください。他のお客さんも待っています。文句があるなら本社にでもクレームを入れてください。とにかくネギ多めもツユ熱めも、うちはやっていません』とバッサリ斬ったんです。少し強い言葉でしたけど、相手が相手ですから当然だと思いました」
◆駅そばに細かいこだわりを持ち込むべきではない
結局、男性はどうしたのだろうか。「舌打ちをして『そんなこともできない店に用はない』とつぶやきながら、返金だけはちゃっかり受け取って店を出ていきました。どうしてそこまでネギ多めとツユ熱めにこだわるのか、理解できません(笑)。ある意味、忘れられない体験でした。店員には災難そのものだったでしょうけど」
藤島さんは騒動をこう振り返る。
「駅そばに細かいこだわりを持ち込むべきではないと思います。店によってはネギ入れ放題のところもありますが、基本的にネギの量は店が決めるもの。食材はタダではないし、物価は上がっていて経営も苦しいはずです。個人的には『ネギ多め』という注文は、善意を当然のように要求している感じがして好きになれません。店にとっては迷惑でしかないと思います」
駅そばは飲食店のなかでも公共性が特に高い場所であり、利用客は改札を通過するかのように短時間で入れ替わっていく。
そうした空間で自分の要求を大声で押し通さんと時間と席を“占有”する人物は、周囲にとっても店舗にとっても、招かれざる存在でしかない。
<TEXT/佐藤俊治>
【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など

