
「骨董品・古本・居酒屋『三福』」で、昭和の大投資家「エビ銀」と出会った20代の夫婦・信二と姫奈。エビ銀に投資のいろはを教わる2人は、彼の助言をもとに買い注文を入れた株の含み益が膨らみ、大喜びします。しかしエビ銀は、「1日1日の変動なんてどうでもいい」と語気を強めて忠告してきて……。本稿では、奥山月仁氏の著書『株小説エビ銀 路地裏の大投資家が教えてくれたこと』より、数年後に花開く「本物の成長株」を見抜く視点を紹介します。
この1年で既に2倍になっている株は、「買い」か?
「もう1点、質問してもいいですか?」
お酒の準備をするエビ銀に信二が聞いた。
「ちょっとメイポに関して心配なことがありまして」
「ふーん。良さそうな株だけどね。どんなこと?」
「実は、この株、1年ほどで2倍も上がっているんです。既にこんなに上がった株って、やっぱヤバすぎますよね。メイポを買うなら、今すぐじゃなくて、これまで上がった反動で、下に株価が動いたタイミングを待つ必要があるんでしょうか?」
これにはエビ銀がほぼ即答した。
「関係ない」
マハ・カラが解説する。
「信ちゃんさ、成長株って、上がりだしたら2倍とかってレベルじゃ終わらないんだ。企業の業績はほんの数年で5倍にも10倍にもなるし、株価もそれに合わせて、5倍にも10倍にもなる。たった2倍でビビってたら、買える成長株なんて1つも見つけられなくなるよ」
信二は驚いた。
「『たった2倍』って感覚なんですね。僕は持ち株が2倍も上がったら、嬉しくて、すぐに売っちゃいそうですが、じゃあ、それもダメってことですね」
「もちろん」エビ銀が答える。
「よく、3割儲けたら売るとか、2倍になったら売るとか、銘柄の良し悪しに関係なく、目標株価を設定して、その株価になったら、必ず売るって人がいる。けど、株価が3割高とか2倍高とかになっている間に、企業の価値がそれ以上に上がっていることもある。仮に株価が2倍に上がったとしても、儲けの見通しは3倍とか5倍とか、もっと良くなっていたら、むしろ、お買い得感は前より高まったと考えなきゃいけない。オレなら、売るどころか、むしろ買い増しをする」
サラ柴も付け加える。
「短期トレーダーの中には、いくら上がったら必ず売る、いくら下がったら必ず売る、みたいに、株価だけを見て売買するケースが多いわ。単純だし、直感的にわかりやすい。けど、少なくとも数年単位で企業の成長を見守るような長期投資を実践するなら、話はまったく逆。株価が少々上がろうが、少々下がろうが、さらなる成長が期待できるなら、とにかく企業の成長力を信じて、辛抱強く持ち続ける。それが、企業を応援しながら、自分たちも儲けようとする、株主の本来のあり方だと思うの」
「うん。ただ……」マハ・カラがさらに付け足そうとしたところで、エビ銀が止めた。
「まぁ、そういう話は、もう少し実戦経験を積みながら学んでいくことだな。まずは、有望株を見つけたら、それを買い忘れないこと。これが一番大事。加えて、せっかく見つけた有望株は、既に2倍も上がっている、という理由だけで買うのをやめちゃダメ。そこまでは頭に叩き込んでくれ」
・投資に勝つコツ⑬
有望株を見つけたら、それを買い忘れてはいけない。
・投資に勝つコツ⑭
既に株価が上がっているという理由だけで、有望株を買うのをやめてはいけない。
姫奈は忘れないうちにノートに書き留めた。
だから株は「怖い」
月曜日、2人はモリタン製菓とメイポにそれぞれ買い注文を入れてから、職場に向かった。モリタン製菓は208円で1万株、メイポは6160円で300株だ。
家に戻って、パソコンで確認してみると、それぞれ注文は約定しており、しかも、終値はどちらも買い値より上だった。嬉しいことに、今日はオーバーロードハウスも上昇に転じ、3社分を合わせると、9万円も儲かっている。
「キャー。上がってるー。9万円♪ 9万円♪」姫奈は鼻歌を歌い始めている。
信二も嬉しい。
「株って、こんなに儲かるものなんだ」
この日からは、株価のことが気になって仕方がない。会社でも、トイレに行ってはスマホで株価を確認し、昼休み中も画面をじっと見てしまう。嬉しいことに、株価は3社とも上昇基調が強まり、週末には含み益が25万円にまで膨らんだ。
「私、もう会社辞めたくなっちゃう。1か月働いたって、手取りのお給料は20万円にもならないのに、たった1週間で、25万円も稼いでくれちゃった!」
株の怖いところはこれである。儲かる時は、想像を超えて儲かる。しかも、これを自分の実力と勘違いしてしまう。常に揺れ動く小さな船の上で、たまたま、近くを大きな船が通過して波がちょっと高くなっただけなのに、そんな偶然を、まるで自分の実力のように感じてしまう。そのくせ、損をした時は原因が自分にあるとは考えない。投資先企業や政治家のせいにして、自分の心が傷つかないようにする。
