
40代後半から50代にかけて訪れる「更年期」。女性ホルモンの分泌が減少するためにさまざまな不調が起こりやすいときですが、東洋医学の視点では更年期の不調を“体内の温暖化現象”ととらえることができます。だからこそ、自然のリズムに寄り添ったエコな養生が重要なカギ。そこで更年期の体に起こる温暖化現象とはどんなものか、そして体内の温暖化をやわらげるエコな養生法についてご紹介します。
更年期=新たなスタートを切る時期、のはずなのに⋯⋯

人生を重ねていくなかで、女性なら誰もが通る道である「更年期」。閉経の前後約5年、計10年間ほどを更年期と呼び、個人差はありますがだいたい45~55歳頃の時期をさします。「時期」と表現しているように、更年期とは病名や症状名ではなく期間のこと。「更」という字は「更新」の更で「新しくなる」という意味なので、更年期とは本来“新たなスタートを切る時期”なのです。
しかし、更年期と聞くとつらいイメージが思い浮かぶ人も少なくないでしょう。女性ホルモンの分泌が減少して心身が不安定になりやすく、心も体もターニングポイントを迎えるときでもあります。
東洋医学では女性の体は7の倍数の年齢で変化し、7の7倍の49歳で閉経すると考えられており、その前後が更年期に相当します。日本人女性の閉経の平均年齢は約50歳なので、ほぼ一致していますね。
では具体的に7の倍数の年齢でなにが変化するのかというと、五臓(ごぞう)の「腎(じん)」の力になります。
五臓とは肝(かん)、心(しん)、脾(ひ)、肺(はい)、腎のこと。肝は肝臓、心は心臓⋯⋯と思われるかもしれませんが、これらはイコールではなく、五臓はいずれも一般的な臓器の機能よりも広い範囲の身体機能をさしています。腎の場合、腎臓機能(排尿など)に加えて水分代謝、月経・生殖・出産などの子宮や卵巣の機能、成長、老化などにも深く関わる、いわば“生命力の源”のような働きにあたります。
この腎の力が7の5倍の35歳頃から衰えはじめ、7の6倍の42歳頃に肌や髪の老化が目立ち出し、7の7倍の49歳頃に女性ホルモンの分泌がほぼ終わりを迎え、閉経すると考えられています。更年期の心身の変化には、この腎の力が深く関わっているのです。
更年期の不調は、地球温暖化に似ている

人間の体にとって“生命力の源”である腎は、自然における海の役割に置き換えることができます。
海は生命誕生の場所。40~35億年前に、波の打ち寄せる力によって海中のタンパク質から原始細胞が生まれたという説があります。波を引き起こすのは主に月の引力ですが、女性の月経もまた月の引力の影響を受け、月の満ち欠けと同じ約28日のサイクルを宿しています。初めての月経は古来から「初潮」と呼ばれてきました。また、ミネラルをたっぷり含む海水は、羊水の成分とよく似ているとも。腎はいわば“体の中の海”と言えるでしょう。
太古の海に思いをめぐらせましたが、一方で現代の海はと言うと、地球温暖化の影響で海水の温度が上昇。ゲリラ豪雨や台風が多くなり、その一方で大陸内部では干ばつが進行、また一方では局地的な寒冷化も見られるなど、熱と水分のバランスが極端にかたよった異常気象が起こっています。
実は、更年期の女性の体で起こっていることは、この地球温暖化の現象によく似ているのです。ゲリラ豪雨のような突然の大汗や、干ばつのような乾燥症状、局地的な寒冷化とも言える手足の冷え。原因は“体の中の海”である腎の力の低下による“温暖化”にあります。
海には、大量の水の力で大気の熱を冷やす水源としての役割と、膨大な太陽エネルギーを蓄熱して大気を温める熱源としての役割とがあります。この海の水源と熱源の働きがバランスよく作用することで、地球全体が暑くなりすぎず寒くなりすぎないように調整されています。
同じように腎にも、体の水源となる「腎陰(じんいん)」と、熱源となる「腎陽(じんよう)」が蓄えられており、両者がバランスよく作用することで体が冷えすぎず温まりすぎない適温に維持できるわけです。
しかし腎陰も腎陽も、老化とともに徐々に減少する運命に。特に女性の場合は月経や妊娠などで血液を多く消耗するため、腎陰が多く減少しやすいのです。そして更年期を迎える頃になると、腎陰が大きく減って冷やす力が弱くなり、腎陽の熱がオーバーヒートしやすい状態に。すると過剰になった腎陽の熱は下半身から上半身へと竜巻のように昇ってしまうため、上半身が急激に熱くなってのぼせたり、頭部に大汗をかいたり、乾燥がひどくなったりし、一方で下半身は熱が不足するために足先が氷のように冷えたりと、熱と水分のバランスが極端にかたよってしまうのです。地球温暖化ならぬ、“体内温暖化”と言える状態ですね。このように腎陰が減少して熱症状が強く現れる状態を「腎陰虚(じんいんきょ)」と呼んでいます。

