
自分を主語に世界を語る、迎合しない姿勢に惹かれた。
ロシア文学者の奈倉さんとお会いしたとき、自分の言葉を出すまでにいくらでも時間を使う人だったのが印象的でした。話の中で引っかかったところは見逃さないし、相手に迎合してヘラヘラしない。このエッセイ集には、彼女が長らく関わってきたロシアの状況について、実際に触れた人にしかわからないことがたくさん書かれています。どれもこういう人がいて、こんな笑い方をして、こう話した、という実体験を通した、身に沁みるような言葉です。私は時々余裕がなくて、対話の間を恐れて思ってもいないことを喋ったり、自覚なく大きな主語を使ってウケを狙ってしまうことがあります。あくまで自分自身を主語に語る、奈倉さんの言葉に込められた確かさと一種の頑なさを、すごく貴重に感じるのです。


伊藤亜和 Awa ItoSelector
文筆家。学習院大学文学部フランス語圏文化学科卒業。noteに掲載した「パパと私」がXでジェーン・スー、糸井重里らの目に留まり注目を集める。著書に『存在の耐えられない愛おしさ』『アワヨンベは大丈夫』ほか。
illustration : Shapre text : Azumi Kubota
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TIME FOR READING / あの人の読書の時間と、本棚。&Premium No. 142
ネットやSNSで、知りたい情報にすぐ辿り着ける昨今。それは確かに便利で魅力的でもあるのですが、ときに、目まぐるしく流れる情報にのみ込まれるような気分になることもあります。そんな慌ただしい時代だからこそ、本を開く時間の特別さがあらためて心にしみるのかもしれません。ページをめくる静かなひとときは、誰にも急かされることなく、自分のペースで思いを巡らせる時間。朝の一冊、“聴く読書”など、本を愛する人々の読書習慣と、個性豊かな本棚をずらりと紹介。読書家たちの手放せない本と忘れられないフレーズ、生き方を教えてくれるマンガ案内……。いまこそ大切にしていきたい、「読書の時間」の見つけ方、そして素敵な本との出合いについて。読書家のみなさんの、本とともにある暮らしを訪ねます。
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