ワークスロップとは、AIによって作られた“見た目はいいけど質の悪いアウトプット”のこと。これが職場で量産され、チェック側が修正する手間がむしろ増えるという、本末転倒な状況が生まれているのだ。
あなたも「見た目は整っているけど浅い分析しかされていないパワポ資料」や「まとまってるけど要点が抜けている議事録」など、出来の悪い制作物を目にしたことはないだろうか? それらもAIによって量産されたワークスロップの一部かもしれない。
では、こういったAI普及がもたらす課題に、テック業界の最前線ではどのような対処をしているのだろうか。そこで今回は、シアトル在住で米テック企業で働く日本人、福原たまねぎ氏に意見を求めた。テック業界の最前線で働く人だから知る、AIと向き合うコツとは?(以下は福原氏による一人語り)

◆米テック企業でも「ワークスロップ」が頻発
多くの企業がそうであるように、僕が働くテック業界でも何らかの形でAIを使うのが当たり前になっています。所属先では経営陣が「AIをとにかく使おう」と指示を出したこともあり、社内には「使わなくては」という危機感のようなものがありますね。しかし、だからと言ってワークスロップがないわけではありません。肌感覚ですが、制作物の2~3割は、急いでAIで作った結果、十分に内容を精査しないままアウトプットされて不十分な出来になっている感触があります。
そもそも、テック企業での仕事と聞くと、いかにもハイテクな作業が多い印象を受ける人もいるかもしれませんが、実際には「書く」ことがすごく重要視されています。文章を書いて企画をまとめたり、技術デザインを作ったりと、書くことを通じて「自分の考えを深める」というカルチャーが根付いているんです。
そうして多くの文章に触れる環境にいるからこそ、内容には敏感になります。AIによるワークスロップは、どうしてもその“センサー”に引っかかるのです。「すごく整った資料だけどどこか変に感じる……」と思って精読すると、どこか意味がギクシャクしていたり、「こんな単語や表現を使っているの、これまで見たことないよ!」というふうに、本人とアウトプットの“ギャップ”を感じることが多々あります。
◆見た目は学術論文、中身は小学生作文
人間が書く文章は、全体の体裁と中身のクオリティが相関する傾向にあると思います。文章が上手い人は中身もしっかりしていることが多いですし、逆に文章が雑な人は中身も伴っていないことが多い。しかし、AIを使うと、誰がやってもまず見た目だけは良くなります。AIは体裁を整えるのが得意です。特に英語の文章だと、普段は絶対に使わないような、かっこいい単語が散りばめられていたりします。
このように「全体の体裁は整っているのに、中身はチープなまま」というギャップに、私たちは「あれ?」と違和感を覚えるわけです。見た目はまるで学術論文なのに、中身は小学生の作文みたい……そういったものも中にはありました。
今、様々な職場で起きているのが同様の問題です。最初はAIに「すごいな」と思っていたものの、利用が浸透するにつれて「これ中身がなくない?」と皆が気づき始めています。特に、アウトプットを修正する立場のマネージャー陣やベテラン社員が、この問題に頭を悩ませているのが今のアメリカの状況だと思います。
質の低いアウトプットが出てきた場合、もちろん本人に差し戻してやり直しをさせることもあります。しかし、見た目は良いせいで、最初は問題に気づかないというケースも少なくない。そして、気づいた時点ではもう部下にやり直させる時間はなく、結局はマネージャー層が自分で書き直さざるを得ない……そんな場面をよく目にします。


