◆直接注意するのは怖かった
「正直なところ、この場面で私が後方から注意をして相手が激昂でもしたらと思うと少し恐怖になってきました。でも、これ以上放置することは他の乗客にも被害が及ぶかもしれないと思ったので、車掌に一部始終を伝えて『確認してもらえませんか』とお願いしたんです」
その後、中村さんはいったん自席に戻り、騒ぎを続けるサラリーマンの後方に再度腰を下ろしたといいます。やがて数分後、車掌がその男性の元に現れました。
「車掌さんが来た瞬間、男性はサッと電話を切ったんです。しばらく沈黙があって、車内がシーンとなりました。少しして彼が『申し訳ありません、ついカッとなりまして』と小さな声で謝っていたのが聞こえました」
その一言に、張り詰めていた空気が一気に緩んだといいます。
◆豹変した姿に残る衝撃
車掌とのやりとりの末、その男性は次の停車駅で姿を消したといいます。後で車掌が状況を詳しく説明してくれたそうで、どうやらその男性は指定席の切符を持っていなかったとのことです。「外見は本当に普通の、会社員らしい人でした。でも、あんな風に豹変するなんて……。人は見かけによらないと、改めて思わされました」
新幹線という、誰もが安心して移動できるはずの空間。その中で起きた一幕は、中村さんにとって忘れられない恐怖体験となったようです。
「もう同じような場面には遭遇したくないですね。ただ、車掌さんがすぐ対応してくれたことには本当に感謝しています。でも、今後新幹線の利用に少しばかり恐怖を感じるかもしれません。トラウマになってしまったようです」
新幹線という公共の場で起きた騒動は、日常のすぐ隣に潜む不安を教えてくれる出来事だったのかもしれません。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

