◆介護殺人は年間1000件は起きている!?
![[貧困介護]の現実](https://assets.mama.aacdn.jp/contents/210/2025/11/1762474637815_rx075vnt49m.jpg?maxwidth=800)
「介護殺人の犯人も多くが、1年のうち364日はきちんと介護をしている。ところが、粗相をしたり、言うことを聞かなかったり、些細なことで手を上げた結果、偶発的に死に至ったケースが圧倒的に多い」
研究者によれば、介護殺人の年間発生件数は約40件。だが、実際はもっと多いという。
「起訴されるのは2割ほどで、大多数は裁判にならないのです。というのは、暴力はあくまで引き金で、持病や既往症と相まって死に至るケースがほとんど。暴力と死の因果関係が証明できないため起訴されない。こうしたケースも含めれば、介護殺人は年間1000件は起きているでしょう」
◆高齢の母に手を上げた介護当事者の心理
介護虐待をしてしまう人はどのように追い詰められていくのか。53歳だった’14年に認知症を発症した80歳の母親の介護を始めたのは、科学ジャーナリストの松浦晋也氏だ。50代・単身・実家暮らしと氷河期世代と重なる部分も多い松浦氏は、2年半に及んだ自宅介護を“敗戦”と振り返った。「熱心に介護すればするほど、親の抵抗に遭う。介護のプロを早期に入れるべきでした。プロでさえ自分の親の介護はできないと言う。家族が介護するのは現実的ではない」
奮闘する松浦氏だったが、ストレスは日に日に蓄積し、介護開始から2年半ほどたった頃、ついに限界に達する。
「母の過食が再発し、夕食が少しでも遅れると買い置きの冷凍食品を食べようとして調理できず、台所に散らかすのです。『母を殴れば、さぞ爽快だろう』『明日もやったら殴れ』と、悪魔の囁きが聞えました。本気で殴れば、下手をすれば死んでしまう。理性では絶対いけないとわかっていました。ところが翌日、夕食の買い物が遅れ、大急ぎで帰宅すると冷凍食品が散乱している。
気がつくと、母の頰を平手打ちしていた。一度噴き出した衝動は歯止めが効かず、母を打ち続けたのです。拳で殴ったら引き返せなくなると無意識に自制が働いたのでしょう。口の中が切れ、滴る血を目の当たりにして我に返りました」
暴力の常態化を恐れた松浦氏は、母親の介護施設への入所を決めた。今後、激増する氷河期世代にとっても、痛ましい介護殺人は他人事ではないと、神尾氏は強調する。
「最近は40代による介護殺人が増えている。犯人の約半数は単身者で、一人で介護を担うビジネスケアラー。介護に追われて残業ができず、非正規で収入が少なく、介護サービスを受けにくくなる負のループに陥る。頼れる親族もいない人が多く、氷河期世代の特徴と重なります。今後、こうした介護殺人がさらに増える可能性は否定できません」

