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「母を殴れば、さぞ爽快だろう」介護に追い詰められる氷河期世代の悲劇。“介護殺人・実は年間1000件?”の背景にあるもの

「母を殴れば、さぞ爽快だろう」介護に追い詰められる氷河期世代の悲劇。“介護殺人・実は年間1000件?”の背景にあるもの

◆介護者が暴力に走る意外なタイミングとは

一線を越えるかどうかは紙一重の差のようだ。松浦氏は当時の心境をこう話した。

「今思えば、前日に『明日やったら殴れ』と悪魔の囁きが聞えたのは、実行を少しでも先延ばししようとしたのかもしれません。ただそれは良心だけではない。母が転んで肩を脱臼し、介護が大変になった経験があるのですが、母のケガは介護の負担となって返ってくるのです。介護殺人を犯す人は、すべて終わりにしたいと思ったのかもしれません」

神尾氏がその意見に頷く。

「介護者の暴力が多くなるのが、要介護者の転倒直後。ケガをして動けないので、介護の負担は何倍にもなる。それまで要介護者ができていたことができなくなり、介護者は怒りを倍増させて虐待に走る。

ただ、虐待が継続的な暴力を伴うのに対して、ほとんどの介護殺人は偶発的。介護サービスが受けられなかったり、将来的な経済不安から精神的に追い込まれた末に、介護殺人に発展する。つまり、実際に困窮する前に実行しているわけで、前倒しで殺人に至っている。最大の原因は、行政サービスが一歩遅いことです」

介護殺人の大多数は不起訴処分ないし刑を免除されることが多いが、親を殺あやめれば重い十字架を背負うことになる。

「地裁が泣いた事件」として有名な’06年の京都介護殺人事件は、54歳の長男が経済苦から86歳の認知症の母親を殺害、自身も死のうとしたが未遂に終わった。限界まで介護に努めた長男に執行猶予付きの温情判決が下るも、8年後、長男は琵琶湖で投身自殺している。

「介護殺人を犯すと、罪に問われなくても仕事を失うケースが多い。だが、頼れる親はもういない。親族の支援は期待できず、きょうだいもいなければもはや打つ手はない。その結果、自責の念も手伝って精神的に追い込まれていく。自死を選ぶ人は多い」(神尾氏)

収入も貯蓄もない氷河期ケアラーが増える未来において、この最悪の結末が大きな社会問題になる前に解決を急がなければならない。

[貧困介護]の現実
【弁護士 神尾尊礼氏】
東京スタートアップ法律事務所所属。東京大学法学部卒業後、東京大学法科大学院修了。企業法務から刑事弁護まで多くの分野を担当

[貧困介護]の現実
弁護士の神尾尊礼氏
【科学ジャーナリスト 松浦晋也氏】
宇宙開発、IT分野で取材、執筆。自身の介護を綴った『母さん、ごめん。50代独身男性の介護奮闘記』(日経BP)ほか著書多数

[貧困介護]の現実
科学ジャーナリストの松浦晋也氏
取材・文/週刊SPA!編集部

―[[貧困介護]の現実]―

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